出版社 → 取次(問屋) → 書店


上記は全国の書店に本が並ぶまでの一般的なルートです。
その他、キヨスクルートやコンビニルートなどいくつかのルートは存在しますが、
近所のいわゆる「本屋」といわれるところのほとんどは

出版社 → 取次(問屋) → 書店

のルートにより、本を入荷しています。
他業界でも問屋を通じてのルートはあるものの、

メーカー・生産者 → 小売店

というルートが年々活発になり、問屋の存在価値が徐々に薄れつつある中、
出版業界における取次(問屋)の存在はいまだに「大魔神」です。


取次会社には次の4つの役割があります。
・出版社と書店の本に関する情報の受け渡し
・本の物流
・出版社からの本の仕入れと書店への本の販売
・金融業

その中で、取次ぎ会社が最も力を入れているのは、もちろん経営に直接かかわる
お金の部分、「金融業」です。ここでいう金融業とは、
出版社からの本の仕入れと書店への本の出荷により生じるお金のやりとりです。

取次会社はとにかく書店に本を多く出荷することが売上を伸ばすことにつながり、
利益につながります。
では、取次会社が売上をより多く伸ばすためにはどうすればいいかといえば、
得意先を増やすことです。では得意先を増やすためにはどうすればいいかというと、
書店を新たに出店させることです。そしてその店が大きければ大きいほど、
たくさん本を出荷することができ、売上増加につながります。


経済が急成長した時代は、中小規模ながらも書店がよりたくさんあったことと、
それらが次々と新規出店をしてくれたことで、取次会社は得意先書店を増やしていき、
同時に売上を伸ばしてきました。
しかし高度成長期が終わり、バブルがはじけ、またインターネットの普及により
従来型の書店は次々と閉店に追い込まれました。書店に閉店されてしまうと、得意先が
なくなってしまい、当然売上が落ちてしまいます。それでは取次会社は困るということで
状況は急激に変化しているにもかかわらず、財務力があり、経営体力のある大手に新規出店を
お願いし、落ちた売上の穴埋め的な意味合いもあるのか、閉店した店舗の売上分を補う意味も
あるのか、書店の数の減少の一方で、店舗面積の合計が大きくなっていきました。
もちろん小売店保護のための大店法の撤廃といった法による規制の緩和もあるのでしょうが、
それ以上に書店の大型化の理由のひとつは、取次会社の事情も大いにかかわりがあります。
別の理由を書店側から探すなら、インターネット書店への対抗策として、それのリアル版を
目指したのでしょう。


さて、取次会社の勢力図は
トーハン、日販による2つの「大魔神」による寡占状態です。その次に大阪屋が続きます。

これら取次会社、特に上位2社による仁義なき争いが、現在の書店の現在進行形です。
仁義なき争いとはどういうことかといえば、
つまり、あのメガ書店の熾烈な出店争いは、少し落ち着いて考えてみると、
取次会社同士の熾烈な争いと言い換えることができます。

メガ書店の急増
  ↓
誰が出店を望んでいるのか?
書店はどこから本を仕入れているか?
  ↓
取次会社
  ↓
取次会社の売上につながる → 利益


隣同士、向かい同士にライバル書店が並ぶ風景はめずらしくありませんが、
彼らの取次会社はだいたいがそれぞれ違う会社です。
これが
メガ書店の熾烈な出店争い = 取次会社の仁義なき争い です。


新たな得意先書店を手に入れた取次会社は、当然本を大量に出荷できるのですが、
新規書店は在庫をかかえるための本の代金を当然すぐに支払うことはできません。
そこで
「初期の在庫分の支払いは、数年先まで待ってあげるから出店しましょうよ。」
などと言うのでしょうか。このような支払い契約と、新規書店のラッシュが重なると
売上増の一方で膨大な売掛金(ツケ)を抱えることになります。
各取次会社の財務状態を見ると、腑に落ちない数字がいくつか見られます。
その最たるものが売掛金、いわゆる「ツケ」の山です。機会がありましたらチェックして
見てください。



こうした「金融業」としての手段が
「出版社からの本の仕入れと書店への本の販売」です。
本屋への雑誌や新刊書籍・コミックの出荷は以前にも述べましたが、過去にいっぱい
売ってくれた書店の実績に基づいて、取次会社がその冊数を決めるのが一般的です。



では、出版社と取次会社の関係について言うならば、こちらも当然のごとく、
大手出版社が中小出版社よりも有利な条件です。
取次会社の巨大な物流センターは、出版社ごと、書籍の形態ごとに棚が分けられているの
ですが、これらはほとんどが著名な出版社ばかりです。
ある出版社においては、取次会社の物流センターに自分の会社の本の流通を委託しているとの
解釈により、書店から出版社に直接出荷依頼をしても取り合ってくれない場合があります。

例えば、書店からお客様の注文をある出版社に電話で依頼したとします。すると、

「そういうことは全部取次さんにまかせてありますから。」

と出版社側から言われることがあります。


一方、新規出版社や中小出版社は、取次会社を通じて書店に自分の新刊を流通してもらおうと
しても、不都合な条件をつきつけられて相手にしてくれません。また、いろんな手数料を
請求されたりとただでさえ金銭的に苦しい中小・新規には非常に冷たいのがこの業界です。

そういう巨大化した勢力は弾力的ではなく、小回りも利かないため、中小・新規出版社は
別の方法を使って書店に本を流通させる方法を考えます。そして、新規出版社である
アメーバブックス社が発売している書籍が既存の取次会社を使っていないことは
注目に値します。

例えば、
「渋谷ではたらく社長の告白」  ISBN 4902843056
「実録鬼嫁日記」        ISBN 4902843048

の場合ですと、上記のISBN(国際標準図書番号)をコピーし、
以下の取次会社のサイトの詳細検索ページでペーストしてみて下さい。



大手取次ぎ会社のホームページ

e-hon(トーハン)
本やタウン(日販)
本の問屋さん(大阪屋)


取引契約がないか、在庫状況のはっきりしない結果が出ます。
または、糸井重里事務所が発行する

「Say Hello ! あのこによろしく」   ISBN 4902516020
「言いまつがい」                ISBN 4902516012 

も同じく試してください。
この2社は、既存の取次会社の流通チャネルを使わず、より新しい方法により市場に書籍を
流通させています。

例えばアメーバブックス社の書籍に関しては、リプライオリティ社という新興勢力が、
彼らの本を全国に流通させています。
リプライオリティ社は流通と同時に書店の棚の仕掛人です。
アメーバブックス社の本が店頭に妙に目立ち、そしてしっかりと売上げた理由は、
この仕掛け人による部分が大きいことは間違いありません。

本来であれば、こういう棚作りの仕掛人は既存の取次会社が行うべきです。しかしながら、
彼らはそういう顧客からの目線よりも「金融業」の仕事とそれに伴う勢力争いに力を
入れすぎました。
そして弱者や新興勢力にチャンスを与えませんでした。
おそらく、既存の取次会社よりも有利で条件がよく、小回りも利くからこそ、
別の流通業者と手を組んだと思われます。

既存の取次会社は確かに流通においても金融においても書店
に多大な影響を与えてきました。
しかしながら、その影響力があまりにも大きいがために、
その弊害が書店や出版社を苦しめていることはご自身が
一番わかっているかと思います。

書店と出版社との直取引も少しずつではありますが、いくつかでは行われています。
問題はそれを結ぶ物流経路の構築や支払い方法の簡素化です。
この物流経路をしっかりと構築することに、ビジネスのチャンスはあります。

衰退産業から新たなビジネスが生まれることはよくあります。
書店、出版社もそうですが、それをつなぐ会社を彼らは探しており、または
自身で物流もやってしまおうという考えもあります。
というよりは、そういった書店プロデュース業や物流業がもっとたくさん
登場してもいいはずです。

なぜなら、いまの書籍の流通に多くの書店が納得していないからです。



次回以降は不定期曜日に発信します

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第36回大宅壮一ノンフィクション賞稲泉 連 著 「ぼくもいくさに征くのだけれど」
高木 徹著 「大仏破壊」
に決定いたしました。おめでとうございます。


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4月20日に松本清張賞の受賞作品が発表されます。
前回は、山本兼一さんの 「火天の城」でした。この作品は、先ごろの直木賞の
最終候補作にも選ばれました。