「ぼんくら」とは、ぼんやり者、まぬけって意味というのは、
前回でも触れたとおりだ。

宮部みゆき著の「ぼんくら」は文字通り、
まったくせわしない世の中をすっかり忘れさせてくれる、読み手を「ぼんくら」
にさせてくれるいい本だったよ。
これじゃあGW気分がいつまでたっても抜けきらないじゃあないか。宮部さん!

まあ、いつまでも「ぼんくら」気分で世の中渡ってるわけにもいかないわけで、
続編とも言われる

日暮らし (上) (下)

を読ませてもらったよ。
「ぼんくら」から「日暮らし」までは、実に4年半近くの年月が経っている
が、実はこの2作品、いずれも連載モノの加筆・修正版ということで、
「ぼんくら」は小説現代の96年から2000年までの連載で単行本化は2000年4月
「日暮らし」は小説現代の2001年から去年までの連載で単行本化は2004年12月

4年半もののブランクがあるくせに、半年後から話が始まるというのは
いやはや合点がいかねぇと思ったが、連載過程を考えると納得したよ、うん。

ただ、続編の「日暮らし」はちょっと現実社会を意識するシーンが多分に出てくる
ところがミソだったよ。ちなみに私事で恐縮だが今朝は白ミソにしたよ。
豆腐とわかめ付きでね。

話を戻そう。
例えば、主人公は前回同様、奉行所の同心、井筒平四郎なんだけど、
まわりの登場人物が、けっこう「心の病」ってやつを抱えている。大人も
子供もだよ。ミソだねぇ。

次に、今でいうストーカーっていう奴もお出ましだ。
この退治のための思案は面白かったよ。こいつもミソだ。

または、子供が子供らしいということがどういうことかという指南を
書を通じて教えてくれるっていうのは、ミソの中のミソだよ。おい。


以上の3つの「ミソ」をこの物語が解決しようというんだ。
高級ミソだろ?
ちなみに私事だが、今朝のミソはインスタントだったよ。がっかりだ。


でもこの「ミソ」を解決するためには、インスタントってわけにはいかない。
じっくり心を込めて解かねばならない難題だ。
のほほ~んでお馴染の主人公、井筒平四郎が
しっかりシメてもらわなきゃあならないんだが、
「ぼんくら」の時と比べて面白いのが、
やたらと行動力を発揮するというところだ。この面倒くさがり屋が江戸中をうろつき
まわるっていうのが面白い。これは前作を読んでいれば明らかさっ!

そして3つのミソの解決法として、

人と人とのつながり

というものを最重要項目に挙げているのがポイントだ。今一番希薄な部分だからね。
3つのうち2つめに関しては、主人公とは別の人物が解決してしまうんだけど、
全体像としては、

「こんな時代があったらいいねぇ。いや、昔はそうだったんだよ。」

という皮肉も微妙に込められているのが本当のところじゃないかね、宮部さん。

も、もちろん、人は殺される。殺されることで読み手に緊張感を与えるんだけど、
あらゆる局面で現代社会と比較したくなる箇所が前回より増えているのは、
いいねぇ。勉強になったよ。

また、トラウマや自殺も本書のポイントになりそうだ。
犯人探しの役に立つ。
ああ、でもこういう犯人探しの知恵となると、面倒くさがり屋の主人公の出番は
めっきり減ってしまうところは、あいかわらずの展開である。
つまり、ミソにダシが入っていないようなものだ。ダシを忘れるな!


本書での人間の性や教訓を2,3引用すると、
・岸が違えば、眺めも変わる

・まっとうに生きている者は、どんなに酷い目に遭わされようと、なかなか
 同じようにやり返すことはできないものだ

・てめえのやったことは、ずうっとついて回るからなぁ。逃げられやしねえんだ



また、「ぼんくら」「日暮らし」両作品に言えるのが、
文中での合いの手のタイミングであろうか。


例えば、

「ぴしゃりとおでこをたたいた。 いい音だ。」

この簡潔なツッコミというか、合いの手の入れ方が次々に登場すると、
読む方もリズムが出てきて本気モードだね。スイッチオン~。

ちなみに自分には合いの手より「愛の手」の方が必要だね、まったく。



本書がらみで最後にまじめな記述をひとつ。

「生き物と別れるのは嫌だ。だから飼わないというのも欲だ。」

という主人公の一節は塩辛い一言だったよ。

「...だから別れるのが嫌だから生き物を親しまないというのは
  賢いことではない....」

子供時代にこれを経験してひどく落ち込んだことのあるtakam16は、
この苦い経験をきっかけに生き物を飼うことができなくなってしまった
1人だ。数多くの知り合いがペットを飼い、癒されるという経験を
味わっていると思うのであるが、当然ながら別れはやってくる。
この時に、どう受け止めているのか、あるいはどう受け止めてきたのかは
是非ともお尋ねしたい。
このままでは一生、動物を飼うことができないような気がする.....
無理に飼うことはないのだが、飼いたい欲はある。しかし、ふんぎりが
つかない。過去の経験が根付いている。


著者: 宮部 みゆき
タイトル: 日暮らし 上
著者: 宮部 みゆき
タイトル: 日暮らし 下
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