箔のついた作品というものは、できれば、それがつく前に読んでしまいたい
というのがホンネです。
受賞する前にその内容を知っているというのは、なんとも鼻高々ではあるませぬかぁ!!

山崎ナオコーラ著「人のセックスを笑うな」
などは、雑誌「文藝」に掲載された時に読んでいたので、
芥川賞候補に選ばれた時には
「こい!こい!賞とれっ!」
などと他作品を比較もしていないくせにひとりイケイケ状態だったことは
今となっては懐かしや、ああ、懐かしいや。



しかしながら、直木賞受賞作品、「対岸の彼女」は個人的にはまったくの無警戒でした。
というのも、「別冊 文藝春秋」誌の連載モノ。ナオコーラは完結型だったから読んだのだ。
連載されていることは途中から知ったのですが、やはり連載モノは最初が肝心。
チェックを怠った自らに 「喝っ!!」。

ってなわけで、一通り読み終えたこの作品。まずは第一声、 

「こてこての女性向きじゃないか。」

それもそのはず、週刊ブックレビューのインタビューにおいて、角田さんは
「30代になると、女が女を区別することが多い。.......
   ....立場の違う女同士が結びつくことができるのか。」

と語っていることを思い出しました。っていうか、これこそが前記事に記した「付箋パワー」のおかげ。
メモっていたのでありますよん。  

さらに、読後チェックにて雑誌「オール読物」での一言を借りるならば、
「女性がテーマの物語。編集者はみな女性。」  

それを男takam16が感想を書くっていうのは、どうよ。難しいじゃないか。
さらにその困難さを助長させているのが、本の内容が、ごくごくありふれた日常風景を
描いたものである点。
作家さんにとっては最も難解なテーマのひとつだそうです。
書き手にとって本来はストーリーやハラハラドキドキ感というものを
ある程度意識しながら展開させた方が読み手の心を掴みやすいと思うのですが、
このあたりをグレーゾーンにさせており、読み手に読後感を画一的にさせないという部分に
おいては、 
「芥川賞候補にノミネートされてもいいのでは。」  
というのが第二声。つまり、僕にとっての芥川賞というのは、作家が書きたいように書いた作品
が対象であり、直木賞というのは、読者を意識した作品が対象という考えがあるからです。
しかしよくよく考えてみると、読者の対象を「女性」にしているという点から考えると、やはり
狙いすました一品という意味かつ、芥川賞というのは最近は特に新人作家の登竜門的位置づけの傾向
もあり、アマゾン等で確認すると、著者は廉価版もあわせると50冊以上もの出版点数経験
を持つベテラン。
やはり直木賞ということで正解でしょう。  


基本的には小夜子、葵、そしてナナコの3人の女性の心模様を描いた作品。  
小夜子は既婚者で子持ち、しかも口うるさい姑も漏れなくついて来る30代専業主婦。
葵は小さい会社ながらも社長として社会で活躍するバリバリの30代キャリアウーマン。
この専業主婦とキャリアウーマンの交差を通じてお互いの心と体の喜怒哀楽ぶりを描く一方で、
学生時代の葵と彼女の同級生ナナコのそれも同時進行させながら物語は進みます。
いわば、1冊で2つの物語というわけですが、両作品を交互に出しながらページが進んでいかなければ、
「対岸の彼女」はそれ自体が成立しません。  
本書の表紙を見てもらうとわかるように、「対岸の彼女」のタイトルどおり、
川の向こう側に女学生らしき2人の姿を描いています。

ここでデザインされた2人の女学生は葵とナナコ、そしてそれを小夜子の視点で映し出した風景が
表紙というわけです。この点から言えることは、
小夜子とナナコの実際の交差は本書では物語化されてはいません。しかし目に見えない心の交差が
文中にはわずかながら隠されています。  

「小夜子発、葵経由、ナナコ行き」

まるで電車内のアナウンスような言い回しですが、彼女達3人それぞれの心と体の喜怒哀楽ぶりをとおして、
読み手がなにを思い、どう感じ、3人の中のいったい誰に感情移入するのか、またはしないのか、
あるいはこの3人の共通点は何であるか、そして冒頭でも述べた
「立場の違う女同士が結びつくことができるのか。」
という著者のテーマにそって考えた場合、その答えは見つかったのか.......などなど
これらは読み手の年齢、職業、結婚歴、そして学生時代の過ごし方などの体験の違いで
まったく異なるはずです。逆に同じ感想になるということは、同じ境遇の経験者同士というわけです。
ただし、

「俺は男だぁー!!」

が管理人の第一声の逆説的表現です。(笑)

とりあえず、本書を通じて個人的に学んだこと、感じたこと、次の読書探しを。
・芥川賞でも面白い。ただし、ベテランなのね。
・派閥・グループ・クラス・仲間といった集団と個人がどうしてもぶつかり合ってしまう
   ことへの憤り。
・エピソードとして、著者は本書を雑誌の連載長篇として執筆したことに大変苦労した点。
・しかしながらこの小説は一気に読むことに価値があるのではないか。
・江國香織との比較読み。
・俺はやっぱり男だぁー!!

まあ、感想らしい感想が書けないこの作品。女心はわからん。

ちなみに、この直木賞作品の我が図書館での人気がすこぶる好調であります。
現在、126名が予約待ちとの情報にちょっと一言、

「オール読物3月号を借りたらいいのに.....」

やっぱり本という形で読みたいのか、それとも純粋に掲載されることを知らないのか、
疑問であります。



....ちゃんちゃん.....。
           



著者: 角田 光代
タイトル: 対岸の彼女