芥川賞・直木賞などの知名度の高い作品や、人気絶頂の作品というものは、
本来であれば日本全国につつがなくあることが買う側としては当然ながら
望ましいもの。大賞作はこの手のプロが選んだわけだから、読みごたえ満載
であるはずだし、人気作というのは、
"普段本を読まない人間が読むもの"
などと、その筋からは揶揄されがちながらも、やはりどこか煌く何かがあるの
だから売れるのであって、
出版社としては、
「文化!文化!出版は文化!!」
と声を大にして言うのであれば、その文化というものををちゃんと発信して
もらいたいもの。
読みたい側としてもその文化を肌でぜひとも感じたいじゃありませぬか。

したがって、出先の帰りにちょっくら本屋へ顔を出そうと思い、
「大賞作」を必死で探すのですが、ない。
「人気作」も欲しいなぁと、店内を隈なく探すのですが、ない。

一方の書店側としても、お客が何を望んで店に足を運んだのかは薄々感じているもの。

「すいません。○○○という本が大賞に選ばれて、それを探してるんですが。」
「あー、いやー、そのー。」

店員としては、返事に困ります。
例えば、夕方にこのような質問を受けたのであれば、
「あー、その大賞作は売切れてしまったんですよ。」

と、逃げることだってできます。嘘も方便ってなわけで、お客側としてもあきらめが
つくのですが、開店と同時に来店されたときには、たまらん!!
そこで出る殺し文句が

「あー、いやー、そのー。」

しかしこんなことではお客は「殺されない」。「大賞作」や「人気作」というものは
新刊書店の名を汚したくないのであるなら、陳列されているのが常識というものです。
それがないのだ。世間の常識は書店の非常識。新刊書店って一体なによ??

ということで、前回の記事では売ってくれる書店にたくさんその手の本が入り、
中小書店等がそれらの入手のための最もオーソドックスな方法である  
「電話・FAX・インターネット」      
による出版社への直接注文への試みに対して
「ちゃんちゃら無駄な行為」
と述べたところで終えたのですが、では今回は実際に「大賞作」「人気作」の入荷がなかった
書店という前提で、例えばこれらの本を注文したとします。

ちなみに、中小書店というものは、台所事情の苦しさもさることながら、インターネットの
導入も大変遅れているのが現状です。3~4年前は実際、導入されている書店は本当に少なかった
ですし、現在でも一般家庭の普及率にはまったく届きません。パソコンを持たない書店の方が
多いでしょう。

ここではインターネットを通じて直接出版社に注文するとします。
出版社側は、各々がHPを持ってはいますが、本の注文に関しては、書店向けとしていくつかの
出版社が集まって、1つの窓口となるサイトをつくり、書店側がそのサイトと契約することで、
書店は窓口サイトを使って本の注文ができるようになっています。
もちろん、すべての出版社の本がインターネットで注文できるわけではなく、世間に知れ渡った
数社による集合体であり、その集合体はいくつか存在します。

「えっ? 書店は問屋に本の在庫があるのだから、そこに注文すればいいのでは?」

おっしゃる通りです。問屋には実際、出版社ごとに大量の本が書店向けに用意されています。
問屋はまさに「書店の書店」というわけです。

書店 → 問屋 → 書店


問屋に欲しい本が確実にあるなら、誰だって最も単純かつ明確な方法で注文します。
注文してから早ければ翌日、遅くて約5日(遅いなぁ...)で書店に届きます。

しかし、問屋に当該本がない場合も多々あります。その場合、
注文を受けた問屋はそれをさらに出版社に注文します。


書店 → 問屋 → 出版社 → 問屋 → 書店

これでは注文してから書店に届くまでに下手をすれば1ヶ月以上かかります。
こんな馬鹿げたことはありません。
また、問屋にどの本が何冊あるかという情報をすべて理解できればいいのですが、
そのためには書店は莫大な費用でそのシステムを導入せねばならず、すべての書店がそれを
持てるはずもなく、事実上はわからないと思ってもらって結構です。

だからこそ書店は直接、出版社に注文をするのですが、例えば、インターネットにより、
先述の窓口になるサイトから「大賞作」「人気作」を注文することを試みた場合、
以下のような状況になっています。


当該人気本の注文ページを開く
 ↓
注文しようと画面を見る
 ↓
①注文不可能   ②保留中


①の注文不可能というのは、要するにインターネットによる急激な注文依頼を未然に
阻止するための防御策

②の保留中というのは、
・受けた注文をこの書店に出荷するかどうか考え中
・注文は受けたものの、他の書店からの注文依頼もあるので、それらが集まってから検討する

なぜ、このような出荷制限をしなければならないかというと、それこそまさに

「委託販売制 別名返品条件付販売」
罪の部分です。
つまり、10冊の注文を書店が出版社に行ったとしても、もしも売れ残ったなら、書店は返品が
できるのです。出版社にとっては返品が最も恐ろしいことです。
だから、ちゃんと売ってくれない書店は10冊注文しても2冊ぐらいに出荷を制限されてしまいます。
②の保留中は一定期間が経つと、出荷待ちへと表示が変わります。ところが、その表示になるのは、
注文をしてから1週間程先になる場合が多いのです。
インターネットという本来は便利で即効性が期待される手段でも、結局は
保留され、待たされ、注文数を減らされ、あげくの果てには注文してから2週間以上経って
ようやく書店の店頭に並ぶのです。
当然、2週間も待たされれば旬は過ぎます。生ものに例えれば、
「腐った商品が入荷された。」というわけです。そして「腐った商品」は返品という便利な
ルールによって送り返します。

ただし、この出荷制限は、「大賞作」「人気作」の場合です。
すでにブームの過ぎた本については、漏れなく10冊、俊敏に入荷されます。


書店→(直接注文)→出版社(悩んだ末に出荷)→問屋→書店(旬は過ぎたので即返品)→問屋→出版社


多くの店舗を持つ書店や、売上の見込める大型店の場合、「大賞作」「人気作」などは仕入れ部門
をつくり、一括購入という方法により入荷することが一般化しています。ただし、一括購入をしたから
といって、その分1冊あたりの仕入れ値が安くなるわけでもありません。


委託販売 別名返品期限販売」の存在で本は、そして読書は日本全国に普及しました。
しかし、結局は出版は文化であるといいつつも、ビジネスなのです。
売れるところに売れる本は流れるのです。大きいところに本は流れるのです。
「返品期限販売」「責任販売制」にすれば、出荷制限など必要ありません。
すべてを「責任販売制」にするのは困難ですが、
責任を持って売ることは、なんとも刺激的です。必死になって売ろうとします。また、
返品という理不尽な作業もなくなります。
ただし、「責任販売制」ですべてを買いきり商品にするならば、売れ残ったときの書店のリスクを吸収
する方法がありません。新古本屋にでも売る以外に処分の手立てはありません。
そのリスクは小売店側が価格決定権を持てるルールがなければどうしようもありません。
しかし、再販制度により価格決定権が出版社側にあるため、値引きができず、リスクは
書店につきまといます。

というか、古いルールと画一化された流通のおかげで、業界は縮小・疲弊・衰退するばかりです。
以前、
「衰退という言葉の裏には新たな息吹が注入される予兆が存在する」
という言葉を別の記事の中で述べました。

そしてその風穴を開けるべく、新たな息吹が注入されつつあるのです。
それらはブログであり、流通であり.......



つづく.....