文字の大きさ。
段の組み方。
これらは本に触れなきゃわかりっこない。
中身をチェックすることで判断可能だ。
字数が多い、漢字のてんこ盛り.....
これで取捨選択の運びとなる。
最近ではこれらの本は嫌われる。いや、
それは昔からだろう。
でもまだ救いはある。本に触れているからだ。

じゃあこいつはどうだ。

「厚さ約4センチの単行本」

まず、「単行本」というのがウッっとくる。
つまり高いってことだ。
次に「厚さ」だ。
分厚けりゃ分厚いほど、当然高い。
内容も重苦しいと勝手に判断だ。ウウッとくる。
これらの本は救われない。
なんてったって、アイド~ ♪

おっと失礼。
なんてったって、見た目で切られるんだ。
外見で判断されちゃ~、どうしようもない。

話をジャンルに限定すれば、
フィクションにおいても長篇モノよりは短篇モノというのが
時代の流れってものだ。
TVドラマなんかもそうだ。
2時間サスペンスや一話完結型の連作ドラマの方がウケがいい。

人の心理をそうさせている原因は世の中だ。
とにかく時代がそうさせている。
情報洪水とせわしない生活環境は人を落ち着かせてくれない。
そして本に関していえば、
本と向き合うためには、ある程度の時間が必要だ。
今はその時間がかつてほどない。
歳をとればとるほど、1日がはやく感じるという表現は
なるほどまとを得ているが、
現代社会の責任も否めない。


そんなわけで、管理人はせわしない生活環境に惑わされないよう、
じっくり生活を営みたい。ここは本に魅せられる場所だ。
やはり読書でじっくり生活を営もう。そのためには....
そうだ、長篇だ。やっぱりこれに尽きる。なら何を読もうか...



宮部だ。宮部みゆきを読もうじゃないか。現代からは離れたい、
コンピュータや携帯電話からも離れたい、でも宮部みゆきからは
離れたくない、そのうえで読書でじっくり生活を営むとは
ぜいたく極まりない管理人だ。そんな自分勝手な御託を並べ立てた
ところで、アンタにふさわしい本などあるもんか、いや、あった。

「ぼんくら」上・下巻
だ。

タイトルからしてふさわしい。ぼんやり者、まぬけって意味だ。
タイトルを見た瞬間から
「時間よ、止まれ。」

ゆっくり落ち着かせてくれるじゃないか、えー、宮部さんよぉ。

デザインもいい。地蔵、寝転がった男の絵。管理人も寝転がって読むよ。

今を忘れるにもってこいのジャンルは時代モノだ。SFも悪くないが、
昔の物語は、人をのほほ~ん とさせてくれる。

とはいってもそこは海千山千の著者。そうは問屋がおろさないのが手だ。
読み出すや否やさっそく人が殺されるっていうのはせわしない。
ついつい寝転がっていた体を元の状態に戻したよ。

つまりは昔々の殺人事件を読まそうってわけだ。緊張だよ、まったく。

時代は平穏な江戸中期ぐらいだろう。激動の時代に江戸の深川北町で
一庶民の「殺し」に話が及ぶわけがない。実際、終始時代のうねりを
感じさせない雰囲気が文章から、会話から伝わってくる。

そこに主人公である奉行所の同心、井筒平四郎のお出ましでいよいよ
背筋をピンと伸ばして読者をとりこにするかと思いきや、意外にも
のほほんとしている。面倒なことは嫌だというキャラクターが、
再び管理人の体を横にさせる。
平穏な江戸時代に適当なキャラを持ってきて、それとは対極の
殺人事件というのがミソで、
しかもそれを解決しようっていうのが心をくすぐるじゃないか。

ここまでくると、のほほんとした時代ミステリーといった印象だが、
主人公も含め、他の登場人物の個性の強さが読み手を未知の世界へぐいと
引き込ませる。ところが、引き込まれたと思ったとたん、
人間の性のいくつかに出くわすところがあり、ハッとさせられる。

例えば、
 
「信心かぶれを説き伏せるのは、ちっとやそっとでできることじゃ
 ねえからな。」

「嫌われ者が余計に人に嫌われるようなことばかりを重ねる」

「女は疑い深いんだから」

「想い人の顔ばかり浮かんでいるので、ほかのものが目に入らない」

こういう人間研究的な表現が幾重も登場し、それが会話であったり文中で
あったり、また登場人物が発したり、文中の解釈で述べられたりと
いろいろな人格になりかわって「性」を読者に伝えているが、それらは
すべて宮部みゆきが他者に成り代わって伝えていることも興味深い。
その意味では

"のほほん型時代ミステリー ~ 人情編  宮部みゆき版"

がふさわしい。

舞台は深川北町のとある長屋。つまり持ち主のいる貸しアパート
にいくつかのお店が入っているのだが、そのひとつが事件現場だ。
よって、長屋に店を出すものやら長屋の関係者やらの人間関係から
現場の長屋の過去の話や長屋の持ち主のことやらと本来であれば
複雑になりがちなところを、
登場人物の個性と人柄がそれをうまく補ってくれる。
よって500ページもの長篇が苦にならず、すらすら頭に入ってくる
のだ。これってどうよ。
うにやいくらをたまごの値段で食わせてくれる高級寿司屋を
髣髴させる。しかも寝転がってもいいのおまけつきだ。
行儀は悪いが、ぜいたくだ。


はやいのうまいの安いのぉ ~♪

これまた失礼。高級寿司屋を忘れていた。


「ぼんくら」は主人公にちなんだタイトルとは思うのだが、
実は、読み手に付けられたタイトルではないか、そう感じた。
それほど、管理人を「ぼんくら」にさせてくれた。

お、おそるべし。


そして「ぼんくら」管理人はお腹いっぱいになって次作の
「日暮らし」上・下巻
にとりかかる。  
こっちも期待してるよ、宮部さん!!  



著者: 宮部 みゆき

タイトル: ぼんくら〈上〉
著者: 宮部 みゆき
タイトル: ぼんくら〈下〉