takam16は、新聞や雑誌の切り抜き作業を愛するタイプである。
前回も述べたように、サンケイ新聞購読者のtakam16。

ただいま紙面連載中の小説
秋元康著 「象の背中」
は毎日欠かさず切り抜いている。
消費者トラブルがらみの問題については「鬼」になるtakam16は、
木曜日の
「ちょっと聞いてよ」(おそらく関西版のみ)
の切り抜きも忘れない。

すでに連載は終わったが、歴史問題にも関心があり、
「新・地球日本史」(毎日連載)
の切り抜きが保管してある。

このように切り抜きに魂を込めているのであるが、
想像以上にこういう作業に時間を食っているようだ。
しばしば
「情報収集ばかりに時間をとられるコレクターのような奴がいる。」

と職場のお偉いさんが字義どおり、偉そうに説法する場面に出くわし、
ムッとなることがあるのだが、その時点でズボシであろう。
極力減らす努力をしているとこの場を借りて報告しておこう。

しかし、努力がまったく良い方向に進んでいないのが、

「捨てる勇気」

である。数ヶ月前にも少し触れたが、管理人には捨てる技術を身に
つけ忘れて、大きく育ってしまったようだ。

ひとつ前の新聞連載小説
大石静著 「四つの嘘」

は既に読み終えたくせに、恋人のように大事にしている。
早く捨てろと悪魔がささやくが、それはもったいないよと天使もささやく。

新聞の切り抜きですら、勇気の出せない状態であるのならば、
本となるとさらに始末が悪い。なにしろ、悪魔がささやいてくれない。
天使ばかりが、もったいないと頭の中でデモを起こす。

さすがに本に飲み込まれていることに気づいた管理人は
数ヶ月前の廃品回収でようやく大胆かつ強引に捨てることに成功した。
棚が寂しくなったとブログに書いたような気もする。

しかしながら、
「売るに売れず、捨てるに捨てられず、あげるにあげられない」

作品もあってしかるべきだ。
売るに売れず、あげずにあげられないのは、傍線、書き込みをすることに
問題があるのだが、この点については決して譲れない部分だ。
そのうえ、捨てられないというのは、傍線、書き込みに加え、当該本が

「五臓六腑にしみわたりすぎた時」にしばしば生じる。

朔 立木著 「死亡推定時刻」


は、2004年夏に発売された警察、検察、弁護士、そして裁判所の内幕を
思う存分描ききった書である。読み始めてしばらくすると、この書は
ノンフィクションなのでは? と思い、本の裏側に記載してある分類コード
をチェックした。

C0093

やはり、フィクションだ。ちなみに数字の部分について補足すると、

左から「0」→ 一般、「0」→ 単行本、「93」→ 日本の文学・小説・物語
である。

「五臓六腑にしみわたりすぎた」というのは、次の4点である。
・冤罪をテーマにしている
・近々、裁判員制度が導入される
・現状の司法制度に物申している
・著者は法律に携わる人物である


舞台は2001年5月。山梨県でひとりの女子中学生が誘拐、そして殺害される。
捜査の結果、過去に犯罪歴を持つ若者が逮捕されるのだが、実はこの逮捕は
誤った逮捕であった。若者はその後起訴され、場を司法に移すのだが.....

とまあ下手な紹介文で、しかも一部ネタバレかと苦情をいただきそうなのだが、
「冤罪」を最初に念頭に置きながら読み進めていくことは非常に重要なこと
である。この書は、犯人探しやアリバイ崩しを最大の目的にしたミステリー
と思ってもらっては困る。

注目は、我々のほとんどがライブでは味わったことのないであろう

死体見分、取調べ室、留置所、裁判所

を法曹界の立場から書き上げ、
冤罪がいかにして起きるのかを読者に切実に伝えようとしている。
そして、来るべき裁判員制度のスタートにより、我々は裁く側を経験
する可能性を持っていることを忘れてはならない。

ところが、
今の裁判はなんだ! 司法制度とはなんだ!という疑問を
著者は肌で感じている。その訴えを1冊の本に仕上げたのが、

「死亡推定時刻」

なのである。

文中には多くの法律用語が登場するが、詳しい説明が読者を助けてくれる。
密室の取調室における被疑者と取調官のやりとりは非常に現実的であり、
TVサスペンスなど見ている場合ではない。

警察官、検察官、弁護士、裁判官、被害者、被疑者、
それぞれの姿勢、心構え、心情、理想と現実も漏れなく描かれている。
だからこそ、takam16はノンフィクションではと疑ったのである。

文章の構成など関係ない。巧みな表現などいらない。
ストーリーの面白さや、合いの手も今日は結構だ。
もちろん、タイトルからして、なにやらいわくつきであるが、
それはご想像に任せる。
これは将来の我々にとって、黙って通り過ぎるわけにはいかない。
だから捨てられないのである。

この本にはまだ当分の間
「捨てる勇気」
を持たなくてもいいだろう。
もちろん本棚の最前列に表紙置きにするのは言うまでもない。



(本書の感想はあくまでも管理人の独断と偏見です。)


著者: 朔 立木
タイトル: 死亡推定時刻
------------------------------------------------------------------------ 第58回日本推理作家協会賞候補作  5月24日受賞作決定予定 長編および連作短編集部門候補作 ・「イニシエーション・ラブ」 乾 くるみ ・「Q&A」 恩田 陸 ・「硝子のハンマー」 貴志 祐介 ・「剣と薔薇の夏」 戸松 淳矩 ・「追憶のかけら」 貫井 徳郎 短編部門候補作 ・「大松鮨の奇妙な客」 蒼井 上鷹 (小説推理12月号) ・「東山殿御庭」 朝松 健      「黒い遊園地」 収録 ・「お母さまのロシアのスープ 荻原 浩 (小説新潮12月号) ・「虚空楽園」 朱川 湊人 (小説推理11月号) ・「二つの鍵」 三雲 岳斗 (ジャーロ16号) <評論その他の部門候補作> ・「ゴシックハート」  高原 英理 ・「子不語の夢」  浜田雄介編 ・「不時着」  日高恒太朗 ・「ミステリアス・ジャム・セッション」  村上 貴史 ・「探偵小説と日本近代」  吉田司雄編 昨年の受賞作です。 長編及び連作短編集部門 ・「葉桜の季節に君を想うということ」 歌野晶午             ・「ワイルド・ソウル」 垣根涼介 短編部門         「死神の精度」 伊坂幸太郎 評論その他の部門     ・「水面の星座 水底の宝石」 千街晶之             ・「夢野久作読本」 多田茂治