☆★☆管理人takam16のバーチャルなお部屋 です。 ☆★☆
 

 白い枠に赤いデザインですっかりお馴染みになった岩波新書。
運転中にロードサイド書店を見つけるとすかさずチェックをすべく
来店するも、書籍のみでの経営はやはり苦難の道とでもいいましょうか、
たいていはビデオ・DVDレンタルを兼ねた形かつ、明らかに後者に
儲けが期待されるため(*一部では顧客のVHSからDVDへの変更に店側
が追いつかず、VHSの中古販売でなんとかやりくりしている)、
書籍部門のコーナーはしばしばがっかりさせられることもあります。
こういったロードサイド書店は岩波書店の本を見つけることに非常に苦労します。
老舗である当該出版社の本は「オール買い切り」であるため、店側としては、
売れないときの不良在庫はごめんだということで敬遠しがち。
しかしある日のこと、やっと岩波書店の新書コーナーを持つロードサイド書店
に出会ったことに少し感動しながらも棚を眺めていると、

「図書館」

のタイトルに過剰反応。動物の発情期でもないのに荒い鼻息ながらも再確認。

「未来をつくる図書館」

即決即断。だらだらした店員の接客を経て、車中で最初の数ページを読みました。

どうやらニューヨークの図書館にまつわるお話。とここで、アメブロ仲間の
「たまむしの家」の管理人、たまちゃんがニューヨーク市民であることを
思い出し、
「ニューヨーク図書館へ行ってきてよ!」

とあつかましいお願いに、しかとされることを覚悟していたのですが、
本人から承諾の知らせが。ここに、本書と実際の市民であるたまちゃんの体験
の整合性や相違点等をつきあわせながらの図書館話でございます。


さて、この本の著者は菅谷明子さん。メディア・リテラシー教育や公共、地域社会
にまつわる研究やその講演をされている方で、ニューヨーク図書館に関する取材を
約5年されたものを出版したのが本書。
数ある図書館の中で、ニューヨーク公共図書館を選んだ理由として、

「時代に対応したタイムリーで革新的なサービスを市民が求める形にして次々と
打ち出している姿勢」
「世界クラスの研究図書館と地域に根ざした分館を併せ持つユニークさ」

がニューヨーク公共図書館にはあると冒頭で述べています。

さてこのニューヨーク公共図書館は単独として存在するのではなく、地域分館や
研究図書館もあわせての呼び名であり、複合体です。
その中心的存在がマンハッタンに位置するのですが、ブルックリン、クイーンズ
各地区にもその地区の名称の図書館があり、各図書館が違った特徴を醸し出し
ながらも相互に連携しあっています。

ニューヨーク公共図書館の最大の注目点は、市民による市民のための図書館です。
建造物や運営予算の大半は市民の寄付により成り立っています。
また、図書館運営はNPO法人が行っており、スタッフ数は3700人だそうです。
市民でなければ利用はできないかというと、そのようなことはなく、
市外の方も年間100ドルで貸し出しカードが作れます。

例えば寄付で造られたもの(実際は改装)のひとつが、たまちゃんの紹介記事の
4番目の荘厳な雰囲気を与える画像、「ローズ図書室」です。フレデリック・ローズ夫妻
の1500万ドル(18億円)の寄付によるもので、名前の由来は寄付者からとった
ものです。場所はマンハッタンの中心にあるニューヨーク公共図書館です。
もちろん、ニューヨークの各公共図書館は著名人の寄付が主体です。
今日これらの図書館があるのはさまざまな寄付者のおかげだそうです。


ただし、これらの寄付には並々ならない努力が必要で、NPOのスタッフが寄付を
お願いするべく、多くの資産家や富豪達と常日頃接触をし、具体的な金額の話を避け、
寄付の重要性を伝えることを前提とした活動が行われているようです。
とはいいつつも全部が全部寄付であるわけではなく、市から一定の予算も出るのですが、
やはり寄付による恩恵が図書館運営のカギであり、不景気は図書館運営にまともに打撃を
与え、開館日を減らさざるを得ないこともあるらしいのです。
資金集めの他の方法には
「友の会」、「寄付講座」があります。「友の会」の会員になることで会員費に比例する
ようによりよいサービスが受けられます。「寄付講座」は、寄付の意義というものを
伝え、市民の協力を促します。

ニューヨーク公共図書館の司書は本の紹介には留まりません。その中での注目は
・職業支援のための履歴書添削、ビジネス講座、各種案内は司書が主体となって
 行う点
です。この根底には、図書館を利用してもらうことで司書から学び得た市民が将来
ビジネスの場において社会で活躍した結果、今度はそれを寄付等により次の若い世代
のために還元するという社会循環を大切にしている点です。この社会循環は、第一線を
退いた高齢者にも活用されます。年齢に伴い社会から離れると孤独感を味わいがちな
彼らのために、例えば図書館が主催する講座やイベントの講師となってもらい、
社会の一員であることを高齢者にも認識してもらう、お年寄りから子供まで皆が一体と
なる社会の形成を補助する役割を司書は担います。
「子供まで」というのは、例えばたまちゃんもお子さんと訪れたブルックリン地区の
図書館は児童サービスが主な図書館です。

たまちゃん情報では、オンラインによる学年別「宿題ヘルプサービス」を司書が行って
いる点に魅力。本書では、自習室に宿題ヘルプのためのスタッフを置き、子供達に
合いの手を差し伸べているとのことです。
学校と図書館の関係も密接で、
学校の先生の指導カリキュラムの作成や相談を司書が主体となって行っているとの噂は
たまちゃんの取材によると事実とのこと。教育面においても図書館が大きな役割を
果たしています。

ニューヨーク公共図書館は、情報リテラシーの重要性をスタッフ全員が共通して
持っており、これに関する講座はもちろんあり、視野を広げてアメリカという見方を
すると、95%の公共図書館はネット端末を無料で提供しています。
ちなみにたまちゃん情報では、42丁目図書館の裏の公園にて、野外映画鑑賞や、
野外での各自PCを持ち込んでネットを楽しむ姿に本人は、ブルブル震えたとのこと。


このように、市民であるたまちゃんも刺激的な体験だったというニューヨーク公共図書館。
自分達が情報の発信源として市民とさまざまな分野で関わっていこうとしているのが
ニューヨーク公共図書館の姿です。

市民参加型で主体が市民であるこの図書館に学ぶべき点が多い日本の図書館。
利用者・職員双方が受身であり、お互いに見えない線引きがされていると
感じるのは、どちらに理由があるのかはわかりませんが、その見えない線は
非常に太い線であると感じます。

浦安図書館などはその意味では注目されている図書館のひとつですが、
近所の図書館は残念ながら、図書館はあくまでも図書館ということで他分野との
連携にはまだまだ乏しく、生涯学習センターも建物として独立しています。
司書も図書以外では良い返事を得ることはできません。
逆に、小さな市町村の図書館には市民一体型として、施設面での合体は見られるものの、
司書が求められる役割は図書のみでそれ以外の知識はまだまだのようです。

著者である菅谷明子さんは、本書のみならず、雑誌記事や論文等でも図書館の未来や
情報リテラシーについて、多くを述べています。ぜひご参考ください。


日本では、残念ながら寄付という精神はなかなか根付かないようです。
貯金・貯蓄の習慣に、国家財政の危機による国民の不信感の昨今、
日本の法人の寄付は5912億円。これはアメリカの3分の1だそうです。
一方、個人の寄付は日本が2189億円。アメリカの100分の1です。
(岩崎慶市の経済独言、サンケイ新聞より)

さらに先日の募金活動を謳って集めた資金を不正に取り扱った団体の事件が寄付への
消極的な姿勢を助長します。

ニューヨークの図書館運営を日本の寄付精神の話と結びつけるのは強引ではありますが、
市民が積極的に参加することで成り立つこのような図書館の有り様を知ることで、
ふと、寄付について頭がよぎった今日の記事でした。




画像付き、たまちゃんのニューヨーク図書館潜入ルポ
   6月9日記事「NYの図書館に潜入」
を参照

The New York Public Library のサイト


著者: 菅谷 明子
タイトル: 未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告―