「友達以上恋人未満」

という都合の良い一言がある。正しくは、「あった」
が正解だろうか。
僕は幸運なことに、このグレーな一言に蝕まれたことは
いまだないのであるが、友人知人はけっこうこの言葉に
ヤラれたことがあるらしい。

恋愛開始の第一歩に告白したところ、

「友達以上恋人未満なんだよねぇ~。」

これを浴びせかけられると、数ヶ月は異性への純な想いに
ふんぎりがつけられないと言うのだ。
友人の嘆きはよくわかる。
キッパリ切り替えられないというのはなんともつらいこと
だろう。

いささか強引に事をすすめるならば、イエスかノーかを
はっきりさせない日本人らしいまとめ方でもある。だが
日本人らしいとは言うものの、他国にも色恋沙汰には
グレーゾーンを利用することがあるようだ。
僕はハンガリーやクロアチアに友人を持つのであるが、
言い方は違えどこのグレーゾンーンは相手の気持ちを考慮した
上で使うとのことらしい。

この「友達以上恋人未満」。「友達」と「恋人」を別の言葉に
置き換えれば、ある本のジャンルに当てはまる。


「借りたい」以上 「買いたい」未満

である。そしてこの句に最も近いのがが

単行本のフィクションのジャンルであろう。

図書館に足を運び、単行本のフィクションが中心の著名作家の新刊本
にどれだけの予約数が入っているかをぜひチェックしていただきたい。
その後、中規模以上の本屋さんへ赴き、当該本の在庫をご覧いただきたい。

図書館では、ふざけが過ぎるほどの予約数にあきれ返り、
本屋ではその予約分の数の本が平積みされている。
業界が廃れ、読者の入手の変化が如実にわかる光景だ。

この現象に該当する著名作家を数名挙げるとしよう。

角田光代
伊坂幸太郎
三浦しをん
宮部みゆき
三崎亜記
村上春樹
村上龍
小川洋子
石田衣良
奥田英朗
恩田陸   (敬省略)

と、挙げればきりがないが、彼らの新刊を借りる試みを我々が市立図書館等
でしようものなら、我慢と忍耐を余儀なくされる。お急ぎならお近くの
大学図書館を薦めるしかないのだが、大学図書館は大学の学部のジャンルに
所蔵が大きく左右される。予算もつらい。

そこで本屋というわけなのだが、すでにおわかりだろうが、ここの管理人も
単行本のフィクションということになると、優先順位が

①市立図書館
②大学図書館
③書店

となってしまっている。これがビジネス書、自己啓発、ノンフィクションとなると
順位はまず書店ということになる。

そこから分析するに
つまり本というものは消耗品という位置づけが頭にはないことに気づく。
しかもジャンルがフィクションなら、一度読んでしまえばもう用無しと考えがち
である。おまけに当たりハズレが他のジャンル以上に顕著であり、リスクを伴う。
さらに文庫とは違い、単行本は値が張る。

安全・安心という守りの姿勢は日常生活ではお馴染みながら、本の世界では
すでに蔓延しきっている。フィクションという不透明な存在が、読者の頭を
かたくなにさせる。しかしながら、読書指南書にしばしば見られるなかに

「本はバクチである」

という一節がある。つまりハズレも確かに多いが、当たりに遭遇したときに
自分の生活・趣味の範囲が広がり、人生に影響を与える可能性があり、自己形成に
役立ち、世界観を変えるかもしれない。だから本代をケチるな、ということだ。


しかし、
「最近の物語がつまらなくなった。」
という読者の声は確かに多い。創作の難しさは、先駆者を基準に批評・批判が行われる
点である。現在頂点を極める作家であろうとも、先駆者が偉大であれば、そして
その先駆者の作品にメロメロになったある読者がいるのであれば、今をときめく
作家の器であろうとも、マネごとだ、そのレベルにないと指摘を受けるのは
容易にありがちなことであろう。

特に物語における創作活動においては世間の支持・文壇の支持を得るのは難攻不落
であろう。
裏を返せば、この牙城を切り崩すことができるのなら、道は開けるというものだ。
ただし、先駆者や偉人の壁はしゃれにならないぐらい強固である。



「借りたい」以上 「買いたい」未満

は僕の世界でも当然ある。それは買うまでもないという消極的な姿勢と
いうよりは、できることなら借りて読んだところ、買えばよかった、
でももう読破してしまったという意味で使いたい言葉である。    


セブンアンドワイトップページ LinkShare アフィリエイト