書店で勤める者にとって、やりたい業務の第一位はなんといっても
本を仕入れることである。

売れた本を追加、補充注文するのは、単純作業で人気はないが、
中には能動的な意味で自分の売りたい本を仕入れたり、
受動的な意味で今、売れている本を仕入れたりするのは、
すこぶる仕事に気合が入る。
そして、注文した本が予定通り自分の望む時期に望む冊数入荷した
時に、これからまだ「売る」仕事が残っているにもかかわらず、
ほぼ満足感を味わった気分になる。
裏を読むならそれほど思い通りに本が入荷されないということだ。

以前の記事で、10冊注文したのに冊数を出版社に減らされて
実際の入荷数は2、3冊ということは日常茶飯事だということを
述べたことがあるが、書店側としてはその点は既に折込済みだ。
実際、ある人気本が10冊欲しいと思えば、半分以下に減らされる
ことを想定して、20冊と注文しておく。予想通り10冊程度が
後日入荷されるというのは書店員なら誰もが経験することである。

しかしながら、どれだけ情報感度に長けた辣腕な仕入れ部員を
店舗に配置しても、どうしても予想のつかない結果が生じることがある。

それは、入荷日である。


本の注文方法は将来的にはより進化するのだろうが、現状では

・機械を使った注文
・ネット注文
・電話注文
・FAX注文      だ。


この中で、ネット注文、電話注文は出庫日や問屋への入荷日はわかるため、
書店への入荷日も計算できる。
ところがFAX注文や機械を使った注文というものは、書店側の一方的な
注文かつ、相手の承諾が確認できないため、入荷時期がわからない。

じゃあわかる方法で注文すれば?とちゃちゃが入りそうだが、電話は遠隔地
からでは時間とお金がかかる。ネット注文は案外注文過程で手間を要する。

書店を訪れるお客側にわかりやすく理解してもらうため、機械を使った注文例
を挙げると、
よく書店員が固定電話の子機のようなものを持ち、店内の在庫チェックと
兼ねて怪しげなまなざしと将来は腰でもいわしそうな体の曲げ方でゴソゴソと
よろしくやっているあの光景。一度は見たことがあるでしょう。
あれは機械を使っての注文真っ最中の状態である。コンビニやホームセンター
でもよく見かける光景でもあろう。

さまざまな機械があるので画一的ではないのだが、その子機の形をした機械には
もちろん数字のボタンがついている。
書店員は、書籍の裏表紙の10桁で4から始まる数字、ISBNコードを入力し、
次に冊数を入力し、それを繰り返す。これはお客に見える位置での仕入れ方法であり、
実際は、売れた本を補充する場合はレジで抜き取られる売上カードに記載される
ISBNコードをしかるべき読み取り機をコードでつなぎ、きちんと整理された
売上カードの束を

読み取り機 → 子機 → データ送信装置

といった順序を経る。この機械は元来懇意にしている問屋のものだから、送信された
データは問屋へ送られる。

*なお、機械のレベルにより、最先端の注文法を取り入れる書店もあるが、
 まだ少数派である

問屋はそれらの膨大なデータを手作業で出版社ごとに並べられた問屋の本棚より
抜き取り、書店別に梱包するが、この部分は機械を頼ることになる。

問屋に送信された注文本があれば、以上の工程で2~3日後には書店へ届くのだが、
例えば1日に機械で200冊注文データを送信したとすると、当然200冊全部が
問屋にあるはずわけがないので、在庫なしの場合、以下の2パターンを考える。 

① 問屋は在庫切れの品を出版社に注文する
② 問屋はしばらく注文を保留にし、別の書店からの返品を待つ


問屋も自分の流通センターに無差別に在庫あるのは経営上非常に危険である。
また、在庫が流通センターに眠っている状態は極めてよろしくない。
さらには人気本は書店から注文が殺到し、また出版社に不足分を注文した
ところで、出版社も在庫不足で注文に応じられない。

書店側としては、注文に応じられない本はすぐにでも在庫切れの返事を
もらいたいのは誰もが考えることである。問屋も注文に応じられない本の
「品切れ」を知らせてくれるにはくれるのだが、この知らせは数ヶ月も先なの
である。

例えば、角田光代さんの人気作品を10冊機械で問屋に注文したとする。
人気作は当然注文が殺到し、問屋はこれに応じられない。出版社も在庫不足で
注文に応えられない。
すると、その注文は当該人気作品がどこぞの書店が問屋に返品するか、出版社
に別の問屋から返品されたことで在庫ありの状態になるまで、とりあえず、
「先送り」される。業界では「保留中」などと言う。

当該人気本が返品されるということは果たしてどういうことかというと、
それは、売り時のピークが過ぎた時である。その時、各書店はいっせいに問屋に
返品する。そしてこの余剰在庫を「保留中」にしてある書店に向けて発送する。
結果として、注文してから2ヶ月近くしてから当該本10冊が入荷したり
するのである。
合点のいかない書店側は、そういう「遅れてやってきたカネのなる木」など
もはやムダな在庫である。即効返品の手続きとなる。しかし、あまりにも
早い返品は問屋側の気分を害する。よってしばらくは店頭にいやいやながら
陳列するハメになる。

時々、書店で一昔前(2、3ヶ月前)にはやった本が何故か平積みされる場に出くわす
ことがある。
これらは、「注文の時間差」の犠牲になった一書店のみじめな風景である。

それはないだろ! 本の仕入れ。


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