「借りたい」以上 「買いたい」未満 の定義

理想 ・・・ 図書館で借りて読み終えたのだが買ったほうがよかったな。
現実 ・・・ 買うまでもない。借りて読めるならそれにこしたことはない。


[理想]

毎年、日本の8月というと戦争や原爆の体験を通じ、
世界平和を願う意味を込めた特別番組に新聞、TVは時間をかけます。

しかしながら、番組作成者も記事の書き手も実質的には60年前の
戦争経験を持つわけはないため、調査・研究・取材の中から得た情報に
マスコミ各社の思想を味付け、上塗りした形で映像・記事を世間に
発信し、さあ、国民よ、どう思う? と決められた枠の中で疑問を
投げかけてくれるのは、それはそれで問題はないのであろうが、
なにせ、国民だって戦争など知らない数が圧倒的なため、

「二度と戦争を起こさぬよう」

と答えも同じになるのは自然の流れだと思います。

戦争経験者という意味においては、田原総一郎司会の
「朝まで生テレビ」において、元帝国軍人を迎えての体験談や
ホンネと建前、それにまつわる討論は非常に興味深かったのですが、
これも視聴者の大部分はなにも知らない者ばかり。
それぞれ考え方の順序や程度は違うものの

「二度と戦争を起こさぬよう」

と誰もが脳裏をよぎるのがまっとうでしょう。



戦争経験のない者、戦争がイマイチぴんと来ない者は以上のような媒体の
力を借りることでしか自分の意見・主張は出てきません。
しかし、正直申し上げると、戦争のわからない者はどう頭をひねろうが、
逆立ちして血の巡りを変化させようがわからないものはわからないんだと
直球勝負の思考があってもいいのです。
その実態のはっきりしない「戦争」というものを代弁するような小説が

「となり町戦争」


世間に受けやすい小説というものは、到底現実ではありえないであろう
非現実的であり、空想、夢想が優先するストーリーを正面から読者に
訴えかけるものに評判がよろしいのですが、「となり町戦争」の場合は
見えない世界は結局はどうあがいても埒はあかないのだということを
認識させてくれた1冊。

書き出しが
「となり町との戦争がはじまる。」

とあり、戦争のお知らせを記した広報なるものが掲載されているので、
町同士の本気の戦争を描くつもりなのかと読書意欲を高めてくれるも、
それは見事に裏切られます。いい意味で。

先述の

世間に受けやすい小説というものは、到底現実ではありえないであろう
非現実的であり、空想、夢想が優先するストーリーを正面から読者に
訴えかけるものに評判がよろしい......

はこの「となり町戦争」にも当てはまります。ただし、

「それは見事に裏切られます。いい意味で。」
というのは、
「正面から読者に訴えかけるもの」

では決してないのです。

主人公と今起きているであろう戦争との距離の遠さ、
そして物語それ自体と読み手との間に感じる近いようで
遠い距離。ポイントは後者の距離をいかに埋めるかにより、
この物語の味わいは変化するのかもしれません。
ほとんどの読者は戦争を体験したことはないのですから、
本書を読むにあたり、戦争未経験者の範囲内で年齢・性別
による距離の違いはさほどないものの、そのわずかな差が
読後の印象を違ったものにしてくれます。


戦争は確かに全国民を結果的には巻き込む形になるのでしょうが、
実際に戦況を把握できるポジションにいるのは国でありお偉いさんであり、
それ以外の人々にはなにもわからない、嘘の情報が流されるは急に空から
爆弾が落ちてくるはで悲惨な地域のある一方で、場所によっては
なにも見えない、なにも感じないのも普通であり、
本書ではそのなにもわからない側を主人公にし、
わかる側を「公人」(本書では役場)とし、すべては役場の情報、指示で
なにもわからない主人公が行動させられるという形で話は進められます。

この点から「となり町戦争」は、市民レベルから感じ取る見えない戦争
を描く中で、型にはまり過ぎる役場・役所にただ従わざるをえない
市民・町民の現状の姿に疑問を投げかけた作品でもあるわけです。
そしてこの疑問に信憑性がある理由として、著者の三崎亜記氏はなんと
現役公務員として勤務しているという事実があるからです。

このアイデアでしかも公務員。なんだかもったいないぞ、三崎亜記。

また、プロの書評家達の千差万別の新聞・雑誌書評記事を比べるのも
なんだか面白うございました。

三崎 亜記
となり町戦争
[現実] となり町戦争の図書館貸出し情報(8月8日現在) 我が町の図書館 ・・・ 所蔵数1冊  予約数28件 京都市立図書館 ・・・ 所蔵数17冊  予約数42件 富山市立図書館 ・・・ 所蔵数4冊   予約数23件 浦安市立図書館(千葉県) ・・・ 所蔵数7冊 予約数71件 豊橋市図書館(愛知県) ・・・ 所蔵数3冊 予約数0件 文京区立図書館(東京都) ・・・ 所蔵数11冊 予約数71件 *図書館はランダムに選択しています。   出版社在庫   在庫あり   ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 今年の8月12日は日航ジャンボ機墜落事故から20年をむかえます。 ところで8月10日より、この事故を題材にしたNHKのドラマ撮影がスタート したそうです。佐藤浩市主演のこのドラマ、当事者を実名とするとのこと。 放送日はまだまだ先の話ですが、 原作は横山秀夫著クライマーズ・ハイ。 ドラマのタイトルは原作とは異なり、より日航機墜落を強くイメージしたもの になり、内容も多少の変更があるそうです。

セブンアンドワイトップページ LinkShare アフィリエイト