takam16の本の棚
です。バーチャルですが......


  
おばあ、登場!!



隣町には僕のおばあが住んでいる。しかし
おばあが住んでいるとはいうものの、ひとり暮らしではない。
長男夫婦とその子供達との同居である。

生まれてこのかた、病気らしい病気もなく、細いながらも
元気ハツラツなのだ。大変結構なことである。あるのだ。あるのだが...


実は3年ほど前から物忘れが目立つようになり、それが進行してきて
現在に至る。
御歳86歳。森光子より1歳年上だが、でんぐり返りなどするわけがない。
したら寿命が一気に縮まる。でんぐり返りは若手でも体を壊すおそれがある。
なんだかんだでおばあに会いに行く機会を先送りしてきたため、約2年も
ご無沙汰だというわけだ。

先日、おばあの妹が様子見がてら、会いに行った。すると
「あんた、誰?」

と言われる始末だったそうだ。

次は、我が母上が会いに行った。
「わざわざ来ていただいてありがとうごぜぇます。」

と言われ、ショックを受けたらしい。

そこで出番がこちらに回ってきた。
とりあえず孫だ。しかし2年だ。このブランクをどう捉えるか。

「あんた、誰?」
ではあまりにもキツいし、
他人行儀も困り者だ。

てなわけで、いろいろ小道具を用意しておばあに会いに行ったのが
先週というわけだ。

・まずはおばあと一緒に写っている子供時代の写真を数枚用意した。
・次に名札をつけた。胸ポケットに「takam16」と黒マジックで書いた
 厚紙をピンで止めた。
・会話のやりとりがうまくいかない。耳が遠いのだ。よってホワイトボード
 を用意した。100円ショップで売っている専用ペンはすぐインクがなくなる。
 よってちょっと贅沢なペンを購入した。

いざ、出陣!!

ガラガラガラッ~。僕が窓を開ける。昔から正面玄関から入らないクセが僕には
ある。クセ者だ。
おっと、いきなりおばあがイスに座ってのほほ~んとしている。嫌な予感だ。
沈黙すること約5秒。
ところが次の一言は想定していなかった。


「あら、takam16ちゃん。元気やった? お茶でも飲むか。」

おい。百聞は一見にしかずとはこういうのをいうのか。
以前から母上は大げさに物事を発するクセがある。
例えば、夕方から雨が降るという予報なのに

「夕方からどしゃぶりになるで。帰ってこられへんかもしれへんで。」
といった具合にだ。

大げさな物言いを真に受けたものだから、認識すらされないものと思い込み、
前日に先述の備えをしたのだ。備えあれば憂えなしとは言うが、誇張した
表現で人を信じ込ませるのは、まるで振り込めサギの輩の手口だ。


とは言え、痴呆が嘘というわけではない。
1分前にした行為をもう忘れたりする。
例えば、洗濯物を取り込んだ後、1分後に、

「洗濯物取り込まなあかん。」

といって再び外に出て戻ると、また数分経つと

「洗濯物取り込んだかな。」

と言い出す。軽い痴呆とは具体的にはこういうことである。

しかし興味深いことは、痴呆でない状態のことならピンからキリ
まで覚えているということだ。難読漢字や活字にも強い。
歴史や建築への造詣はかなり深く、おばあ以上の人にお目にかかった
記憶はない。ブログでたまにお見かけする程度だ。

よって、DVDや、携帯某や、パソコンやという新型には対応不可能だ。
ゴミ置き場や食器の場所を勝手に変えるのも危険だ。
場所が変わると以前の場所にあることを体が覚えている。よって
そのまま捨てるし、食器は言われるまで探している。
とにかく新しいことを覚えるのは無理である。


財団法人 ぼけ予防協会 というのがあり、ホームページも用意されている。
こちらをクリック

以下は当該サイトに記載の「ぼけ介護10か条」である。

 1.【コミュニケーション】語らせて微笑みうなずきなじみ感
 2.【食事】工夫してゆっくり食べさせ満足感
 3.【排泄】排泄は早めに声かけトイレット
 4.【入浴】機嫌みて誘うお風呂でさっぱりと
 5.【身だしなみ】身だしなみ忘れぬ気配り張り生まれ
 6.【活動】できること見つけて活かす生きがい作り
 7.【睡眠】日中を楽しく過ごさせ夜安眠
 8.【精神症状】妄想は話を合わせて安心感
 9.【問題行動】叱らずに受け止め防ぐ問題行動
10.【自尊心】自尊心支える介護で生き生きと


おそらくボケてきた原因は、コミュニケーション不足によるところが
大きいだろう。おばあの住む一家はおばあと会話をしようとしない。
皆、仕事を持っており、おばあが独りの時間がけっこうあった。
さらに、おばあの子供、つまり長男がおばあの衰えに嫌気をさし、
相手をしなくなっていた。母上がおばあのことで大げさになるのは
母上の性格以上に血のつながりの近さにあるのだろう。


とにもかくにも、そういうおばあに孫がしてやれることとして、
次回会いに行くために昭和時代の写真付き図鑑を図書館で借りてきた。
図書館はこういう時に抜群の力を発揮する。
事情を説明すればそれなりの書籍を用意してくれる。
司書殿に感謝する。ブログで感謝などせずに、実際に感謝しろだ。だまらっしゃい!


それが

決定版 昭和史 (昭和31-38年)
決定版 昭和史 (昭和39-45年)

の2冊だ。

昭和34年は現天皇陛下のご成婚。冒頭からいい写真だ。おばあのツボだ。
ミスターこと、長嶋茂雄の写真もてんこ盛りだ。いい薬になる。ちなみに
おばあは阪神ファンだ。拒絶反応だけはやめてもらいたい。
昭和39年の東京オリンピックの写真は刺激的だ。おばあ、41歳の時の
大イベントだ。

他にももう少し詳しく読んでみる。
昭和42年、ミニスカート大流行!!
ブーッ。失礼、鼻血が勢いよく飛び出てしまった。のりまき千兵衛だな。(Dr.スランプより)
三島由紀夫の割腹自殺直前の演説写真もある。ちょっと刺激がきつくないか、おばあには。
夢の島でハエが大量発生。住民に襲いかかる。なんじゃこりゃ。


この時代を生きていない自分としては懐かしさや思い出という類のものは
感じないが、古い写真を見るのは子供の頃から非常に好きである。
おばあのためにと思って借りたはずなのだが、結局は自分の興味の押し付けの
ような気もするが、まあいいだろう。


今ではパソコンでどうにでもなる写真。便利になるのは大変ありがたいことなのだが、
昔のシロクロ写真の連続に、そんな時代もあったものだと感じるのは
おばあだけではないだろう。
 

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