takam16の本の棚
です。バーチャルですが......


  「なんだ、誰も借りてないじゃないか。」


大学図書館の棚を舌なめずりしながらニヤリと微笑む自分がいる。
大学キャンパスの8月は、茶髪も金髪も、そしてお色気すらお目にかかれない。
いや、のんびりモード全快の図書館員達がなんとお色気モードである。
なんだかスカートの丈が短い。生徒ゼロで開放的なのか、ううむ。

ニヤリというのは他でもない。
ちまたで人気絶頂の本たちが借り手がいないらしく、借りてくれぃと
フェロモンをかもし出している。
図書館員のフェロモンなど鼻息で吹き飛ばしてしまえ。ここは図書館だ。控えぃ!


「ダ・ヴィンチコード」
「花まんま」
「サウスバウンド」
「魂萌え!」

公共図書館では大活躍のこれらの人気作が
大学図書館ではいつでも借りれる準備が整っているのである。
こいつは使わないわけにはいかないと思うのも無理はない。

一部の大学図書館は学外の利用者に利用を許し、毎月統計をとっている
ところもあるようだが、大々的に利用の勧めはしていない。
こちらから見れば秘密裏に事が進められているように感じる。

あ行......か行....と来て、人差し指にブレーキがかかる。

川上弘美  「古道具 中野商店」

川上弘美....。まだ読んだ経験はないなぁ。恋愛モノを得意としている
著者の作品.....。どうも他人の色恋話にtakam16は非常にノリが悪い。
しかし、ちょっと待てと思った。

女性読者の心をわしづかみにすることで有名な角田光代さんが朝日新聞で

そこで繰り広げられる会話が面白い。Aという話題を持ち出したのに、それが
BへCへとずれて、核心がいつのまにか見えなくなっている


と書評しているのをチェックしていたために、ここは角田の誘いに乗ってみるかと
背表紙置きされた本書を指で強引に引き抜いた。そうだ。強引にだ。
本棚にあまり本を詰めて並べるのはよろしくない。

「そんなに本をぎゅうぎゅう詰めにしちゃあダメだ!」

と口では言えないので、同じ言葉を紙に書いて意見箱に入れてやった。見てくれた
図書館員の人、それは僕が書きましたので、心当たりのある方はこちらまでコメントを。

さて、角田さんが会話の展開力をクローズアップするものだから、それを基に読むのだが、
興味は別のところにあった。
「古道具 中野商店」は、12話からなる物語なのだが、各々関連性のある話も
あれば、単独で成り立つ話もある。初出は文芸誌「新潮」で、この物語は毎月連載されるものでは
なく、2ヶ月の間隔から長ければ1年のものまである。
それらを集約したのが「古道具 中野商店」だ。

こういう1話が15分程度で読み終える長さなら、寝る前の「快眠前読書」に適すると
考え、失礼だが睡眠薬代わりに読ませてもらった。キリのいいところで本を閉じるきっかけ
があるからだ。長篇とはそこが違う。オホン。
ところがそうは問屋がおろさないのが「古道具 中野商店」である。

なんといっても、各話の書き出しを読むと、
「なんだ、この思わせぶりな一行目は!」

とつい口に出してしまう。

例えばだ。
「第一話 角形2号」とある。その書き出しは

だからさあ、というのが中野さんの口癖である。......

「第三話 ペーパーナイフ」の書き出しは

チ、と短い音がする。

「第六話 ミシン」はというと

松田聖子が出たんだけどさあ。

という具合であれば、ビビビと来るのは当然だ。
次が気になって仕方がない。

小説すばるの編集長山田裕樹氏が
「最初の1行は2行目以降を読ませるものでなければならない。」

と雑誌某で語っていたのをメモにして取って置いたのだが、まさに
この言葉が川上弘美の「古道具 中野商店」に当てはまる。


物語の筋はさほど困難なものではない。ひとつの古道具屋がある。店の
名は「中野商店」。店主はもちろん中野さん。そして視点はその中野商店
でアルバイトとして働く「わたし」であり、中野商店、そして中野さん
を中心に物語られる。中野さんのクセや特徴を面白おかしく描き、
訪れるお客を詳細に語り、仲間のことを鮮明に述べている。
もちろんちょっとだけ恋愛もある。川上弘美だ。角田光代も書評するのだ。
ナニがないのも妙だ。だが、それも中野商店を取り巻く出来事の1シーンに過ぎない。
視点は「わたし」でも、主人公は中野商店と中野さん。
だから最後まで楽しめたような気がする。

非常に真面目路線で勝負するのかと思っていた本書。
書き出しの狙いもそうだが、文中の講釈は頭に絵を描きやすい。
「わたし」は少し感受性の強い人間にも感じ、過去の人の会話や風景を
思い出すところが多々あるのは百歩譲って違和感を感じたが、それも川上作品なの
だろうと「川上初体験」の僕は感じたのであった。 


「書き出し」はブログにおいても大切なものだろう。いや、特に短い話が中心の
ブログならなおのことだ。タイトルも大事だが書き出しも大事。
わかっていることだが、それは難しい注文である。もう寝よう。次に読む本は
これだ。ふふふ。


 
川上 弘美
古道具 中野商店
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