takam16の本の棚
です。バーチャルですが......


  大人買い 



管理人は2年ほど前は書店で朝から晩までしこたま働いておりました。
日曜・祝日、お盆に正月ははっきりいって出勤。
小売・サービス業なら普通だろうと割り切りはするものの、
TVで海外脱出のニュースを見るとやはりうらやましく感じました。
当然休みが平日になるのですが、人の少ない平日の観光地に遊びに行く
のも意外に違和感のある風景で楽しいものだなぁと。

現在もそうなのですが、地方へ遊びに行ったりするとつい地元の小さな
書店を見つけては棚をなめるようにチェックしたものです。
ご当地ならではのフェアなどないものか、そのフェアを方言でアピール
してやしないかなどなど。

自分の地域は関西でしたので

「めっちゃ~」
「やっぱ好きやねん。」

をフェアごとに使いまくり、それを見かねた上層部から

「こらっ!!」

としかとされれば

「へい。」

と答えるしかない有様。

お偉い方はわからんのですよ、と心の中でぼやきながら、
しぶしぶフェアタイトルの変更をさせたものです。(←させた?、おい!)



話はころっと変わりますが、
スーパーのようにキャベツやれトマトやれ卵やれ牛乳やれ紙おむつやれ
たらふくカゴの中をいっぱいにして子供時代の注射の痕が付いた太い腕を
見せつけながらレジに並ぶおばさま方を見ると、

「太い腕だがうらやましい限りだ。」

と書店員は思うわけです。書店のレジに入っていると、来る客来る客
1冊、2冊しか持ってきてくれない....

それじゃあ売上があがらんのです、もっともっとと視線をギラつかせるのですが、
みんな、週刊文春1冊、文庫1冊、フライデー1冊.....

売上を左右するものは客数か客単価。どちらもかんばしくない昨今、駅前の大型
書店に出くわす風景、そう、あの輩がウチにはないなぁと店員間でささやいて
おりました。

大人買い。

定められた紙袋では手に負えず、手提袋を出さざるを得ないあの嬉しい衝撃。
それを味わいたいねぇ、でも無理だ、ウチじゃあと、店長もあきらめ顔。
手提袋、ちゃんと発注したのだけれど、いつになったら使うのかねぇと
時間の経過とともに埃まみれになる手提袋を布で拭く始末。

大人買い。ウチの店では夢物語だねぇと苦笑しながら過ごしていたある日、
やってきました、ついにこの日が。

白髪交じりのボサボサ頭。黒ぶちメガネに湿った唇。しかしビシッとスーツで
決め込む、どこをアピールしたいのかがさっぱり予測できないこの中年男性が、
ついに念願の大人買いを決行。

時間は夜の11時。10時にアルバイトが2名退社。自分と残ったアルバイト2人
の合計2名。店長は毎度お馴染みの殿様帰宅(午後5時半に退社。おい!)。

アルバイトに尾行を命じ、自分はレジで「戦況」を見守る。
アルバイトから情報が逐一入る。

「コミック文庫で大人買いです。や、やりました、ドカベンです。」
「ミステリーコーナーに潜伏。宮部みゆき作品の前で腕組みをしています。」

ド、ドカベンの大人買いといえば、全31巻。1冊590円(当時は税抜表示)
が31冊ということは、19000円を超えるお買い上げじゃないか!

三度伝令が入る。
「宮部作品10冊はありますよ。」

まさに薔薇色です。夜中に働いてよかったとすっかり開放感に浸りました。

そしてついにご本人がレジの前へ。我が店には不親切にもカゴを用意していないので
アルバイトが大人買いをしっかりフォロー。自分と目配せをする。いい仕事ぶりだよ。

ところが、大人買いというものは、書店側にとっては大量購入をしてくれた方に
対するある種の造語。購入者の知能レベルまでが大人かどうかは眼中にありません。

お客
「これ、どっちが安くなるかやってみて。」

う、ううっ、そう来たか.....

当時は本体価格で表示されていた書籍類。バーコードに1冊ずつ通して本体価格の合計額
を算出した後に、レジの「税ボタン」を押して最終的な支払額が表示されるのがこの店の
システム。
「どっちが安くなるか」というのは、1冊ごとに「税ボタン」を押して支払額を算出し、
それを残りの本にも同じようにして、最後にそれらを合計してくれという意味。

理由は簡単。場合によっては支払う金額が大きく変わるのです。
例えばドカベン全31巻を税抜き価格それぞれ590円だとします。

先に税抜き価格を合計して、最後に「税ボタン」を押すと
590円 × 31冊 × 1.05 =19205円

一方、1冊ずつ「税ボタン」を押して31冊分を合計した額は
590円 × 1冊 × 1.05 × 31冊 = 18910円

実に後者の方が295円も安く購入できるのです。

真の大人買いとはこれだったのか...と戸惑う我々。しかし、レジは両方を
試すために大混乱。なんとか結果が出て

「18910円です。」(実際には宮部作品の数十冊もあります。ここでは省略)
と言うと、お客がさらなる大人ぶりを発揮。

「それら全部カバー掛けて。」

あー、口から泡が、泡が出てきそうだ.....31冊 + 宮部作品数十冊......

今なら、例えば「ブラジャケ」など、広告付きの鮮やかなデザインで定評の
ブックカバーを別に設置して、..ご自由にお取り下さい.. などもありなのでしょうが、
当時はそうじゃなかった....
というわけで2人でせっせとのら仕事、いや、カバー掛け。40冊を超えるカバー設置は
思いのほか視野を狭くさせるのです。つまり、カバーに全力投球のため、
まわりが見えなくなります。

ちょうど、このレジでの応対中、こんな夜遅くに上層部が店舗チェックに来店。
招かれざる男の登場に普段は店内に緊張が走るのですが、こちらはそれどころでは
ありません。

「おい、ちょっとこっちへ。」

その声にようやく気づいた自分は、揉み手をしながら上層部のもとへ。

「へい、なんでございましょう。」

上層部
「棚がスカスカやないかっ!!どんな在庫管理しとるんや!!」

姉さん、事件です。

その場所は本来ドカベン全31巻のあった棚。当然大人買いのお客が買った
のですから棚はスカスカ。
どの店舗業界もそうなのかは存じ上げませんが、
空いた棚は厳禁です。すぐに別の本で空いた棚を見えなくするか、ストック
があるなら補充しておく手段を講じねばなりません。

「薄毛、いや、薄棚は隠せ!!」
とのことです。

後日、店長は会議で上層部に薄棚の件でガミガミ言われたそうです。


大人買い......  あまり大人すぎるのもいかがなものかと。

 
 

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