takam16の本の棚
です。バーチャルですが......

でかかった日本


原チャリは大変おトクな乗り物だ。異常なほどの渋滞も日々悩まされて
いるであろう大阪人。朝晩車を使おうものなら、この出来事への憤りは
隠せない。だからこその原チャリである。

遅い。それは確かだ。国道で80キロがお決まりの車達には敵わない。
ところが信号がその穴を見事に埋めてくれる。路肩というわずかな隙間を
ついて、何十台とごぼう抜きした時の快感。それを不満そうに睨みつける
車のドライバー達の高揚ぶりにまたまた快感である。

安いのも魅力のひとつだ。それは車体が安いことよりも維持費にある。
年1000円の税金はトクした気分だ。自賠責など高いのもあるが、
いままでの走行距離を考えると十分採算がとれている。

原チャリの免許は16歳の誕生日を迎えるや、真っ先に取りに教習所へ行った。
1日で取れる免許などそうはない。家に帰ると今度は原チャリ購入の段取を
整える。こちらは登録等があり、当日というわけにはいかないが、まあいい。

ブツが手に入り、待望の運転となるわけだが、高校時代は好奇心旺盛だ。
ちょっと遠出もしたくなる。中には北海道1周などとそんな誇大妄想なと思いきや
実際に福井県の敦賀から出港している新日本海フェリーに原チャリを北海道の
小樽まで載せ、楽しんだ悪友もいた。当然スピード違反で捕まったことはいうまで
もない。ざまあ見ろだ、この野郎。

そのような大胆なことはできなかったが、琵琶湖1周や大阪ー名古屋往復の旅など
はした。しばらく腰痛に悩まされたのは言うまでもないことだった。

しかし、自分の経験や悪友の北海道旅行も「原チャリ界」では遠出の部類だろうと
のほほんと構えていたのだが、ある本を読んでいたところ、原チャリの旅から
アジアの旅へと発展したという前書きを読んで「ぎゃふん」と発してしまった。
発したことがまことにお恥ずかしい限りだ。

その本の著者の根底にあったのは、
自分が生まれ育った国である「日本」を知らないという思い
という。確かにそうだ。自分は外国人を1人雇っているのだが、(英語の個人レッスンです。)
相手の日本のことへの質問にうまく答えられない歯がゆさがある。それは英語がうまく
しゃべれないというよりは、作法や習慣、文化や宗教についての知識に不足があるという
ことへの歯がゆさだ。

著者は先述の理由から日本を知る旅を始めた。それが原チャリによる日本旅である。
「ぎゃふん」というのは、旅の延長のつもりで原チャリを船に載せてロシアのサハリン
を訪れたのを機にアジアを旅することになり、ついに本まで出したということだ。
それがこちら。
西牟田 靖
僕の見た「大日本帝国」―教わらなかった歴史と出会う旅
著者は1970年生まれというから、30代だ。 そして本のタイトルからわかるとおり、「大日本帝国」、それは戦前、戦中の 日本のことを指す。つまり、戦争を知らない世代である著者が戦前、戦中の 「大日本帝国」時代を見つける旅を綴ったのが本書ということである。 彼は訪問地として ・サハリン(ロシア) ・台湾 ・韓国 ・北朝鮮 ・中国東北部(旧満洲) ・サイパン(アメリカ) を旅している。これらはすべて一時期日本の領土、あるいは統治していた場所 である。そこでさまざまな「日本の発見」、明確には「日本の残像」を見つけ、 それらを地域ごとに語っている。 中国東北部を除くと、日本語を話す人がけっこういることは興味深い。 それらは当時、日本領だということでそこに移り住んだ者、または日本統治時代に 日本語教育を受けた人々であり、「日本の残像」というのは、日本の敗戦の時点で 有形無形のあらゆるものが停止してしまったということである。 神社の存在も見逃せない。 大日本帝国時代には各地に神社が建てられた。その役割は、戦争へと国民をまとめる ための国民意識の統一、天皇崇拝のための道具としての役割だという。 それが敗戦により、各地域でいっせいに取り壊された。興味深いのは、地域によって 「日本の残像」の性質が違うということである。 例えば台湾では破壊を免れた神社がいくつかある一方で取り壊された神社もある。 蒋介石の国民党が毛沢東の共産党に破れ、自分達の中国を建設するために台湾にやって きた時にその取り壊しが行われている。大日本帝国は日中戦争時代の敵である。 壊すのが自然の成り行きだろう。しかし、大陸からやって来た国民党政府を不満に 思う当地の住民がかなりいたことも確かである。それが「日本の残像」として 今存在し、日本は色濃く残っている。 一方、中国、韓国は敗戦と同時にほぼすべてが破壊されたようだ。 しかし神社とは違うものの、当時の日本の建造物を残した博物館があるのだが、 それは日本が中国や韓国を侵略した証拠として残しているという趣旨だそうだ。 これも「日本の残像」である。 ミーハーだと言われそうだが、北朝鮮訪問の話も期待した。 しかし、お国柄、さすがの冒険好きの著者も行動を制限され、モレなく2人の 案内人を付けられ、お決まりの観光地を巡らされたと述べていた。 この記事で最も興味深かったのは、案内人との会話の一幕。 著者が男性用避妊具をプレゼントしたところ 「ワタクシ、妻とイタますとき、こういうものは使いません。」 と言われ、さらに男女はどこでするのかと尋ねると 「そんなのはどこでもできるのですよ。」 と返したのを面白く読んだ。ありがとう。 サイパン島の南西にテニアン島という島がある。そこにある2つの原爆を搭載した ピット(地下室)跡の写真は、短い記述だったがなんとも言えない気分だった。 ATOMIC BOMB PIT NO1 広島 ATOMIC BOMB PIT NO2 長崎 ここで原子爆弾は保管されていたということである。 前にも述べたが著者は1970年生まれ。よって戦争のことなどなにも知らないため、 当時については図書館等で調査をしながらの本書であり、よって、 ~らしい。~という。~だそうだ。 という表現が至るところに登場する。また、最後に結論は出せないとしている。 僕はそれでいいと思う。戦後25年経って生まれた人が、当時のことがわからない のは当たり前である。当時を知る人間でも歴史認識の問題は議論の的となっており、 収拾がつかない状態に感じる。 著者の思想は、戦後教育の「侵略」が原点となっている。 思想の旅もそこから始まっている。そこにアジアの諸地域を訪問し、現実に戸惑う 著者がいる。そして、おそらくのちに調べたであろう当時の情報がある。 知識としての「日本」。 目で見て耳で聞いた「日本」。 調べた「日本」。 そのバランスが個人的には好きである。 さて、本書をどこで知ったかという話になるが、王道路線といわれる 書店で知ったのではない。ホームページにアクセスしたのでもない。 本書は、週刊ブックレビューの名物コーナー、3人の書評家ゲストによる 「おすすめの1冊」のコーナーでジャーナリストの武田徹さんが紹介した ものである。そして同じく本書を読んだ作家の吉川潮さんが、 「著者の次の作品への活動資金として、ぜひ買ってほしい。」 と言った。自分はそれに乗せられた。よって、 「借りたい」以上「買いたい」以上 というわけだ。それが証拠に、すでに古本屋に売れないぐらいに傷んでいる。 ☆★☆★☆★ 予定・情報・☆★☆★☆★ 10月より日テレ系土曜夜9時にて白岩玄さん原作の 「野ブタ。をプロデュース」 がドラマ化されます。 主演...山下智久、亀梨和也 ------------------------------------------------ 10月からの新ドラマフジ系列火曜夜10時「鬼嫁日記」の参考本はこちら ------------------------------------------------ 9月10日公開映画「銀河ヒッチハイク・ガイド」の原作本はこちら ------------------------------------------------ 2007年度のNHK大河ドラマは「風林火山」に決定。原作本はこちら (来年度は「功名が辻」。原作本はこちら )
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