takam16の本の棚
です。バーチャルですが......


  前回の記事では、

「家族・友人・知人にブログのことは言えません。」

でのお話で皆様の鼻をムズムズさせたようで、多くのコメントを
いただき嬉しい限りなのですが、すっかり秋も深まった10月後半、
最近の朝晩の冷え込みにもかかわらず、
窓を開けっぱなしにして「ガ~スカ」寝たものだから
本当に鼻がムズムズしてしまい、大変不覚なtakam16です。

は~っくしょん。


さて、ブログよもやま話で皆様を賑わしても所詮は
「本と本屋と図書館に魅せられて」。

長い休暇の後に元の生活に戻るのが困難なように、当ブログもまたタイトル
に沿って話を元に戻さねばなりませぬ。襟を正して真面目にいきましょう。


は~っくしょん。



あなたの仕事は何ですか?

と尋ねられれば、私の仕事はなんと答えるであろう。

私の仕事は本屋さんです。
私の仕事は図書館司書です。
私の仕事は新聞記者です。
私の仕事はパイロットです。
私の仕事は○○会社の社長です。
私の仕事は専業主婦です。
私の仕事は学生です。


人によっては、なかには魅力的な答えもあるかもしれず、それは
特殊な仕事か高給が期待できる類のものだろうが、
まあありきたりだ。妙味がやや欠けている。
だったらこういうのはどうだろう。

あなたの仕事は何ですか?

私の仕事は「死神」です。


「!!!」


生きた人間の魂を死後の世界へ連れて行くのが死神の仕事だ。
そんな死神を主人公にした作品が文芸誌での数回の掲載を経て
単行本となって世に生まれた。

心配するな。この本自身に死神はついていない。ネタが死神なだけだ。 胸を張って堂々と読もうではないか。 本書の主人公は当然、「死神」である。 しかし、先述のように 私の仕事は 死神 です。 などと教えるわけがない。もしも死神であることをバラしたら、 それでこの物語にはケリがついてしまう。そんな設定を 作家、伊坂幸太郎が望むわけがない。 この主人公の死神は、どうやら情報部というところが部署らしい。 ならばこれは株式会社「死神」か、というとそういった部分はこの 物語には不要のようだ。 主人公の名前は千葉という。そして千葉は情報部に所属する。 では情報部とは何をするところなのか、 あらかじめ別の部署が近々死が必要ではと選んだ特定の1人の人間を 情報部が調査に行って、その人物が「死」を実行するのに適しているか どうかを判断し、その報告をするのが仕事である。 調査期間は7日間。その間に必要だと判断すれば「可」の報告をし、 8日目にその人物は死ぬことになるのだ。担当した情報部の死神は 8日目にその「死」を見届ける。それで仕事が完了する。 「死」を扱うテーマといえば本来、重くてずしりと肩にのりかかった、 読後感もこってりしたものが多い中、この「死神の精度」における爽快感は いったいなんなのだというのが第一声である。 主人公の死神こと千葉は、与えられた「死」を判断する仕事のために、 対象の人物にあわせて、年齢や風貌を変えている。例えば、 ・20代前半のOLには、イケメンの20代の男。 ・やくざには、40代の中年男。 ・服屋の若手社員には姿勢のよい好青年。 ・殺人を犯した者には、30代の会社員。 のようにである。 また、いろいろと含み笑いを連発してしまう妙な主人公である。 本来は7日間で死を判断せずとも、すぐに判断して「可」にしてしまえば 仕事は終わりだ。なのに主人公は7日間ギリギリまで判断を遅らせる。 理由は仕事に真面目だからではなく、仕事が早く終わってしまうと自分も 人間の世界からいなくなってしまい、それではCDショップで音楽の視聴 をする楽しみがなくなるからなのだ。 この死神、人間の作ったもので最もすばらしいものを「ミュージック」といい、 最も忌み嫌うものを「渋滞」というのだ。 気持ちはわかるがこれでは普通の人間と同じじゃないか。 ところが、対象の人間に変な質問を浴びせかける。 「恋愛とはなんだ。」 とか 「旅行とは、どういう行動のことを指すんだ?」 これらを訝しげながらも説明する人間もまた面白い。 さらに主人公は死神であるゆえに、妙な特性がいくつかある。 人間に素手で触ると、触られた人間の寿命が1年減ったり、 食べ物の味がわからなかったり、 おなかが減る・いっぱいになることがなかったり 殴られても痛みを感じなかったりと.....。 人間でもない、妖怪でもない、そして妖怪人間でもないこの死神。 妖怪人間は 「早く人間になりたい~!」 などと主題歌で叫んでいたが、結局その夢を果たせなかった。しかし この死神は人間なんて滅相もないことが文中ににじみ出ている点にも注目だ。 なのに人間の姿・形で普通に対象者に接触し、会話をし、時には衣食住を 共にする。もちろん指は5本ある。そして決して見た目は怪しくない。 6つの短篇を単行本にしたのが本書であり、どれも工夫をこらした一級品だが 中でもお気に入りだったのは、ある館に招待状により集められた数名が次々に 死んでいく事件が題材の物語だ。普通に考えれば、よくある古屋敷で次々に起こる 連続殺人として読み手をとりこにするはずが、この話は死神の物語。 死んだ発端はもちろん情報部各々の業務のひとつというわけだ。 死神は千葉だけではない。他にも多くの死神が働いている。 一人一人に死神が付いて、忠実に仕事をしたというわけだ。 これほど客観的に屋敷の連続殺人を楽しんだことはなかった。 図書館に行っても伊坂幸太郎の作品はそう易々と借りられるものではない。 新刊の予約の件数は常に2桁。大きなところでは3桁だ。死神こと千葉の 嫌う「渋滞」言い換えれば「行列」が図書館ではおきている。 一方、すばらしいと死神が褒め称える「ミュージック」。 これは伊坂幸太郎が実際に好むジャンルの1つだ。 著者が繰り返し聞く3枚のCDが週刊文春で紹介されていた。 昨年の8月12日号である。 ・THE ROOTSTERS ・斉藤和義の全アルバム ・ソニー・ロリンズ 「ソニー・ロリンズ vol.2」 本書におけるミュージックが上記の音楽であるということではないの だが、他書において音楽の話を盛り込んだ作品、一文を見つけたなら、 伊坂幸太郎と音楽との関わりについていろいろ思案するのもありなのでは ないだろうか。 さてこの死神。あろうことか大阪に居を構える管理人ことtakam16 が愛してやまない阪神タイガースにもどうも付きやがったらしい。 4連敗だ。死神の仕業に違いない。 死神は7日間で「死」の判断を行い、調査の結果「可」としたならば、 8日目にそれを実行する。 つまりは昨日(10月25日)、「可」の判断をし、今日(10月26日)に 実行の運びとなったわけだ。調査が始まったのは10月19日か。 そして死神はその「死」をちゃんと見届けることでその業務を終える。 阪神は今日4敗目を喫し、「死」を迎えた。そして、それを見届けたのは 誰だった? 「死神の精度」の主人公は誰だった? 千葉だ。 大変遺憾である。 は~っくしょん。