takam16の本の棚
です。バーチャルですが......

 
 時代小説というものは近年なかなか支持されないなしい。
というのも、現代小説であればその時勢と照らし合わせながらいくらでも
書き方がありそうなものだが、
昔の話となると書くべき内容が限定されてしまう。
古い時代を舞台に奇想天外な物語とくっつけるいうパターンはしばしば見受けられるが、
話が時代小説ということになると、やはり真っ向勝負の物語を描くことが本筋に通って
いる傾向が強いようだ。。

例えば歴史的人物を主人公にした物語はまさに真っ向勝負であろう。
いや、この場合は時代小説というよりは歴史小説というのが正解か。
司馬遼太郎氏あたりが真っ先に思い浮かぶ。
また、岡っ引きや盗人、あるいは街の役人を主人公にしたシリーズものも人気がある。
すぐに池波正太郎氏を思い出したが、最近では宮部みゆき氏の描く時代モノが記憶に新しい。

しかし、彼らは皆ベテランだ。時代小説を書ききるためには、物語よりも以前に
膨大な時間をかけて時代考証を行わねばならず、それは2、3年で習得できるシロモノでは
ないという。
仮に時代考証の間違った小説ができあがってしまうとやはりわかるものには
わかるようだ。さらにもしも間違った時代解釈のもとにその本が売れた結果、
その作家が売れっ子になったとしよう。文学とはいえ、カネの絡む世界だ。徹底的なあら探しが
いっせいに開始される。特に同じジャンルを描く作家の嫉妬というものはこれまたすさまじい
ものがある。時々文芸誌においてある有名作家のコラムを読むとちらほらとその嫉妬心が
伺える。

時代小説・歴史小説作家に新鋭が生まれにくい環境が起きるのは、確かにこのジャンルの小説
の読者層の高齢化が原因であり、知識の深さは歳の数に比例するという考えは古めかしい一方で
読書の世界にはその古めかしい考えは十分通用する。
しかしそれ以上に同じ時代小説・歴史小説作家の評価の厳しさが敷居を高いものにしていること
も事実であろう。
また先述の司馬遼太郎氏や池波正太郎氏、平岩弓枝氏、津本陽氏などの存在は、それがあまり
にも重鎮でありすぎるがゆえに、いっそう閉鎖的な感が否めないのだ。


以上のような理由から時代小説の新人作家を探そうとしてもけっこうなベテランの
お歳であることがしばしばある。

今回手にした城野隆(じょうの・たかし)氏。まあ誰も知らないだろう。
彼も時代小説としてのキャリアは50歳を過ぎてからだ。

城野 隆
一枚摺屋
歴史小説や時代小説において最も読者の関心が強い時代は政治的混乱期である場合が多い。 その最先端が「戦国時代」であろう。織田信長、豊臣秀吉そして徳川家康がからんだ 物語はこれからもトップの座を譲らないであろう。 その「戦国時代」と僅差で人気を誇るのが「幕末」である。 坂本龍馬、西郷隆盛、高杉晋作といった歴史人物が活躍した時代であり、もちろん 政治的混乱期である。 このような混乱期を一庶民の視点で描いた作品が本書、「一枚摺屋(いちまいずりや)」 である。 一枚摺とは簡単に言えば、今でいう"新聞"というイメージを持って下さればよい。 ただし、日本でお馴染みの朝、目覚めたらポストに投函されていたというようなものではない。 また、当時は政治面、経済面、スポーツ面、テレビ番組などの区分けがあるはずもなく、 今でいう"号外"のような感じであった。ただし、おカネはきっちりとった。 本書は幕末の政治的混乱期を一枚摺を通じて庶民に伝える有様を描いた作品だ。 新聞の役割のひとつはなんだ? それは権力に抗い、間違ったことはダメだと苦言を呈し、庶民にその事実を伝えることだ。 幕末の混乱期、もちろん日本をダメにしている元凶は250年間も続く徳川幕府であった。 当時はそういう幕府批判を庶民に知らせようとすれば、町の奉行所がすっとんできたものだ。 その記事はやめろ、さもないと.... といった具合にだ。しかも当時は外国が日本に開国をせまり、それに抗うグループが存在した。 外国の言いなりになどなるものかと、開国を認めてしまった幕府を批判した。 また、この頃はは地震・天候不良などの天災により庶民は大打撃を被った。生活面に関しては おコメの収穫量に問題があり、幕府が残り少ないコメを買い占めて 庶民が生活苦になる事態が起きた。 そこからさまざまな不満が積み重なって、徳川幕府による独占的な体制はいかがなものか、 もうそんなことはやめて政治権力を天皇・朝廷に返したらどうか という風潮が有識者の間で巻き起こる。これを 尊皇攘夷運動という。 ちなみに昨年の大河ドラマでは香取慎吾主演の「新撰組」が放送されたが、新撰組はそういう 尊皇攘夷運動を良しとしない、京都(当時は京)の取締、はっきり言えば幕府に反対する者を排除し、 殺す集団であった。徳川幕府の右翼という言い方がわかりやすいか。 しかし、インターネットのような便利な情報収集手段を当時はもちろん知らない。そうなると、 それを知らせることでカネ儲けをしようと考える者がいて当然だ。それが一枚摺屋だった。 主人公は一枚摺を作る仕事だ。しかし、その仕事をするきっかけとなったのは父親の死が 原因なのだ。 実は主人公、草子屋を営む父親とケンカをして勘当されてしまった。話は勘当されて4年が 経ったある日、その草子屋の奉公人とバッタリ出くわしたことから始まる。久しぶりの再開に 酒を飲みかわしながら勘当された家のことをいろいろ聞くと、父がめっきり老け込んだらしい。 父親は草子屋の傍らで一枚摺の仕事をしていた。父は草子屋は妻や奉公人に任せ、好きな一枚摺 を作っていたのだが、老け込みのせいで一枚摺が満足に書けなくなった。 そこで主人公が 「オレが記事を書こう」 ということで一枚摺を出したところ、町の奉行所から待ったがかかり、父親は連行されてしまい、 あろうことか、死んでしまったのだ。自分が書いた記事で父親が死んだことに耐えられず、 その死の真相と究明すること、そして父の意思を受け継ぐことを決意する。 潜りの一枚摺屋、「茜屋」の誕生だ。 当時の世の動きを世間に知らしめるということは、当然権力の批判だ。 一枚摺は道端で行き交う人々に大声でセールストークをぶちまけて売りさばくのだが、 そんな批判を奉行所が許すはずもない。よって売る場所や時間を考えねば捕まってしまう。 その駆け引きがなかなか面白く、本書の読ませどころの1つである。 同時に進行する父親の死の真相とセットで楽しめる。 幕末の政治的混乱とその状況を一枚摺を通じることで信じる庶民達。 現代にも似たような部分はあるのだが、 確か坂本龍馬が... 高杉晋作が死んだらしい.... 徳川慶喜が政権を返した.... という我々には聞き知る名前も当時の庶民はその程度のものなのだ。 その距離感になんだかわかるわかると頷いてしまうのだが、 所詮、庶民はそういう「あっち」で勝手にやっている政事に振り回される立場でしか ないのだ。徳川幕府は確かにダメだ。けれど新たな世の中となったとすれば自分達の 生活はどうかわるのか、その期待や不安が交錯し、押さえのきかない感情を吐き出す手段。 それが 「ええじゃないか踊り」である。 これも誰かが独自にあみ出したというわけではない。その真相は世の不安に耐えられない ある庶民が神社にお参りしたところ、神符降臨があったことが発端らしいが、はっきりしない。 とにもかくにも、不安解消法として、皆で踊り狂うというわけだ。それが ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃないか ♪ である。 このええじゃないか踊りが時代小説にしばしば見られがちな塞ぎがちになってしまう 読み手の心を開かせる。本書でももちろんええじゃないか踊りは描かれる。 これが西郷隆盛や坂本龍馬を主題にした物語なら、遠い位置づけにならざるをえない だろう。しかしここは庶民を描く小説。忘れてはならない。 新人作家の庶民の視点で描いた一枚摺が発端で聞き知った幕末物語。 読める者が読めば時代小説のことだ。あーだこーだと難癖が付くだろう。でも、 ええじゃないか!! 本書の感想であるが、重厚、濃密といった読み手を疲れさせ、そして暗くさせるような 物語では決してない。だからといって笑い止め薬を常に要する物語でもない。 ボリューム満点、カロリーたっぷり、さあ召し上がれというわけではないが、3時のおやつ にサクサクっといただく印象もない。 しいて言うなら、昼前までぐっすり寝てしまったために朝昼兼用となったご飯を食べた という感覚か.... え、意味がよくわからんですって? そんなこと別にええじゃないか!! 時代物や歴史物にはなぜか"死"がモレなく付いてまわる。物語を良くするも悪くするも "死"次第の感は否めない。"死"が物語の起点、終着点として利用されすぎやしないかと 最近特に思うのだが、 そんな話もええじゃないか!! ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃないか ♪ ヅラがバレてもええじゃないか。 Yahooニュースで知ったのだが、あるボクシングの試合中にボクサーの 一方の頭のヅラがとれてしまったようだ。ちなみにそのボクサーはTKO勝ち をおさめたという。記事の一文が滑稽だった。紹介する。 「カツラを外し、邪念も消えた小口(←本人の名前)は怒とうの猛ラッシュし、   力強い連打で柴田を追い込み、見事7回TKO勝ちを飾った。」 ええじゃないか! ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃないか ♪ スッピン見せてもええじゃないか。 週に2度生ゴミを出すのだが、早朝にゴミ出しをすると必ず、 他のマンション住民の女性に出くわす。みな素顔を見られぬようごみ出しには細心の 注意を払っていることが伺える。しゃれにならないぐらいの早足でまるでなにか 悪さをしたかの様子でゴミ置き場へやってくる。両手がゴミ袋で隠せるはずも ないものを..... 見せてもええじゃないか! ダメか? ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃないか ♪ 早く来んでもええじゃないか。 朝8時30分。ピンポ~ン♪。宅急便です!! 早すぎるねん。休みの日ぐらい遅く来い。 そんなに早うなくてもええじゃないか!! ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃないか ♪ 正月休んでええじゃないか。 「takam16君。1月1日は仕事ね。」 えー!! 上司は 「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃないか ♪」 と踊りながら迫ってくるので 「ダメじゃないか、ダメじゃないか、ダメじゃないか ♪」 とこちらも踊りながら逃げ隠れしたのだが、万事休す。 すっかりご機嫌ななめのtakam16。 もーえーわ!!
城野 隆
一枚摺屋