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takam16の本の棚
です。バーチャルですが......
前回の記事はこちら
今回、文藝春秋社の候補枠は3枠あると予想している。
伊坂幸太郎 「死神の精度」
姫野カオルコ 「ハルカ・エイティ」
城野隆 「一枚摺屋」
が自分の推理するところでその理由と候補になった場合の受賞の可能性についても
前回述べた。
ただし、3番目の城野隆氏とその作品については直木賞のステップレース的であると
述べた松本清張賞受賞との結論に選考委員の希望も考慮して挙げたが、他の作家にもつい
色気が出てしまう。
また、伊坂幸太郎氏の講談社刊「魔王」のノミネートの余地も残すため、補欠として
3作品選ぶこととする。
・山本幸久 「凸凹(でこぼこ)デイズ」
-
気になるのが著者の文学賞経歴にある集英社が主催する「小説すばる新人賞」である。
山本氏は平成15年度に「笑う招き猫 」でこの賞を受賞したのだが、
この新人賞の受賞歴を持った作家の直木賞候補者、あるいは直木賞作家はけっこう多い。
最近では133回に三崎亜記氏が小説すばる新人賞受賞作の「となり町戦争」でノミネート
されている。
過去には熊谷達也氏も「ウエンカムイの爪」で新人賞を獲得後、「邂逅の森」で直木賞作家
となった。
古くは佐藤賢一、篠田節子もこの新人賞の獲得者だ。
山本幸久氏の「凸凹デイズ」は商業出版としては3作目、そして初の文藝春秋社からの出版だ。
ちなみに過去2作はいずれも集英社からの出版である。
今回受賞するかと言われれば正直難しいが、新人・新鋭作家の発掘が急務の現在の出版界、
そして最近直木賞候補の初選出が目立つ中、経験が浅いながらも山本氏の存在は無視できない
ものがある。
・ 森福都 「漆黒泉」
-
こちらもあまり知られていないかもしれないが、主に中国を舞台にしたミステリー、推理モノを
得意とする作家である。この作家も過去に松本清張賞の受賞作家であるが、それよりも今回
興味を持つのは、先の山本幸久氏も伊坂幸太郎氏もそうなのだが、
彼らはみんな、日本推理作家協会の会員に入っている作家である。
この推理小説・探偵小説の書き手が多く所属する日本推理作家協会。
実はこの会員メンバーが直木賞にノミネートされることが非常に多い。
ちなみに、協会は独自に日本推理作家協会賞、そして江戸川乱歩賞を主催しており、
いずれもバックには講談社がついている。
実際、これら2つの賞経験者が直木賞候補者となることもあり、以前触れた、講談社より初選出
された直木賞候補者がのちに直木賞作家になる可能性がどの出版社よりも高い理由にはこの
日本推理作家協会とそのバックの講談社が一枚かんでいると自分は考えている。
前回の133回直木賞候補者で日本推理作家協会会員を挙げると
恩田陸、朱川湊人、古川日出男、
前々回の132回直木賞候補者は
伊坂幸太郎、福井晴敏、本多孝好
131回は
熊谷達也、奥田英朗、伊坂幸太郎、北村薫、東野圭吾、
130回は
京極夏彦、朱川湊人、馳星周、
ちなみに初選出作家は青字である。
・東野圭吾 「容疑者Xの献身」
-
話題沸騰、人気急上昇の本作品である。だから正直気になったというのがホンネ
である。年末発売の週刊文春でも圧倒的な差でNO1に輝いた本書を
まさか2次選考委員が放っておくはずがないだろう。
ただし、データは東野氏が直木賞作家になるための楽観的データに欠けている。
文藝春秋社によりで2度候補になりながら、
受賞できなかった作家が直木賞を獲得する確率は
過去20年間に限定すると、22%、
過去10年間では 0%
過去5年間でも 0%
今回選出されれば3度目の文藝春秋社からの候補となる。ならば落選するのがいままでの
パターンだ。彼が直木賞を受賞すれば彼は非常に作品数が多いため、フェアの1つは
簡単に作れるだろう。
しかし直木賞を獲らずとも、彼は十分出版業界に貢献している。
いまさら受賞せずともさらに上を目指せばよい。
よって今回は候補の可能性は十分あるが、受賞の可能性まで尋ねられるとNOというしかない。
それは彼の作品、実績の問題ではなく、単にデータの問題だ。
◆講談社
今回、講談社からの候補作をいろいろ検証したが、
伊坂幸太郎氏が「死神の精度」が候補にならない場合の「魔王」での選出以外、
あまり魅力的な作家が見当たらなかった。
江戸川乱歩賞受賞作家の神山裕右氏や薬丸岳氏、不知火京介氏も考えたが、
いまいち突っ込んだデータがない。
詩人で小説家でもある平田俊子氏の「二人乗り」
日明恩氏の「埋み火―Fire’s Out」
も考えたが、結論が出なかった。
講談社からは2回連続候補作なしと予想はどうかとは思うのだが.....
◆集英社
・荻原浩 「さよならバースディ」
-
なんといっても荻原浩氏の「さよならバースディ」を候補作ナンバー1に押す。
山本周五郎受賞者は8割以上の確率でのちに直木賞候補作にノミネートされる。
そして、直木賞側はさほど文学賞のレベルと差はないように感じる山本賞側に
格の違いを見せ付けるために1度目は候補に選んでおいて最終選考会で落とすのだ。
また、荻原氏は日本推理作家協会会員ではないが、小説すばる新人賞の獲得者だ。
そしてこの賞は集英社の主催。集英社代表というわけだ。
・恩田陸 「蒲公英草紙―常野物語」
-
さらに集英社からはもう1作。前回の133回直木賞候補者から続けてノミネート
されそうなのは彼女である。朝日新聞社の「ネクロポリス」も出版されているが、
最終選考会において過去、上下巻の長篇候補作は散々コケにされ、落選させられた。
また朝日新聞社は直木賞と縁が比較的薄いため、ここは集英社刊の本作品だろう。
ちなみに彼女も日本推理作家協会会員である。
おまけに、吉川英治文学新人賞受賞経験者というおまけも付いている。
過去のこの新人賞の獲得者で直木賞候補に選ばれた作家は
伊坂幸太郎、福井晴敏、恩田陸、諸田玲子、宇江佐真理、山本文緒、馳星周、
真保裕一、浅田次郎、宮部みゆき、大沢在昌、景山民夫、船戸与一、高橋克彦.....
過去の受賞経験から作家を見たときに最も直木賞に直結する賞と言える。
・古川日出男 「ロックンロール七部作」
-
補欠として、恩田陸同様、前回のノミネート作家の連続入選を挙げておく。
彼は文藝春秋社から「ベルカ、吠えないのか?」でノミネートされた、つまりは文藝春秋社
から初選出された作家は同社の恩恵を受けやすいのである。
それでも次点にした理由は、単に上位2作品のノミネートの確率が高いと推理するまでだ。
◆新潮社
さて、問題の新潮社である。山本賞を抱えている新潮社とは事実上のライバルだ。よって、
新潮社からの選出は山本賞からの選出も合わせて考えることがポイントとなる。
ここで押さえるべき点は
①山本賞にノミネートされたことがあるか。
②山本賞に過去1度だけノミネートされた場合、その作品の版元は新潮社か。
当初の予想では梨木香歩氏の「沼地のある森の中で」が直木賞候補作に入ると信じていた。
しかし、それはとんだ勘違いのようだ。
彼女は山本賞にかつて新潮社刊の「家守綺譚」でノミネート(受賞ならず)された経験を持つ。
こういうパターンの場合、直木賞側としては新潮社以外の出版社からの作品を直木賞候補作
に出す。 「沼地のある森の中で」は新潮社だ。もしもこの作品が他出版社から出ていたら
どれだけ良かったことかとつい腕組みをしてしまった。実に残念である。
「沼地のある森の中で」は、おそらく次期山本周五郎賞の候補作になるだろう。
そこで他の作品に目を向ける。山本賞のノミネート歴のない新潮社刊行の作品を考えると
2作品が浮上した。
・畠中恵 「おまけのこ」
・市川拓司 「世界中が雨だったら」
その中ではシリーズものであるが、新潮社を代表して畠中氏の「おまけのこ」に奮闘して
もらいたい。氏は山本賞にノミネートされても不思議のない作家だ。
よって文藝春秋社としては先手を打って山本賞にノミネートされる前に直木賞候補歴を
彼女の経歴に入れ込むことで畠中氏を育てた新潮社にプレッシャーを与えておくのだ。
さらには彼女は「怪(あやかし)」をテーマにした江戸時代小説を描く作家だ。
文藝春秋社の時代小説直木賞候補作推理の 城野隆「一枚摺屋」の2次落選の保険的意味合い
としてこの時代小説を候補作として推理する。
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◆角川書店
絲山秋子氏はいつの日か、直木賞になる要素は十分ある。彼女はかつて芥川賞3回連続候補作
に選ばれた経歴を持つ。角田光代氏も同じ経験を持ち、のちに直木賞作家となった。
今回は「ニート」という作品を発売しているが、もう少し時期を待ったほうがよさそうだ。
また、歌野晶午氏の「女王様と私」も考慮に入れた。
ただし、彼の作品は別世界のものだ。文章自体、または文章の節・章・構成等を利用して
読者を罠にはめる方法をとる。作品のタイプが直木賞にあわない気がする。
◆幻冬舎、徳間書店
幻冬舎はとにかくエンターテインメントを大切にする。売れなければ本じゃないという考えの
もと、奇抜な作品でしかも読者をとりこにする作品を世に送り出してくれる。
エンタメという概念において、それは直木賞の大衆文学に近いものである一方で、
文学という概念にしがみつこうとしない点において直木賞最終選考委員にケチがつく。
文藝春秋社に近いようで実際はまったく逆を進む出版社であると思っている。
それが幻冬舎が直木賞作品を出さず、直木賞候補作が少ない理由だと考える。
しかしながら、今期間には2人の作家を押す。そしてそのうち1人がノミネートされるだろう。
・黒川博行 「暗礁」 幻冬舎
・馳星周 「楽園の眠り」 徳間書店
・安東能明 「ポセイドンの涙」 幻冬舎
3名とも日本推理作家協会会員であり、黒川氏、馳氏に関しては不名誉だがいつまでたっても
直木賞候補の常連だ。おそらく今回が最後のノミネート作になるだろう。
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◎...ほぼ確定予想
▲...可能性あり。
注意1...伊坂幸太郎は講談社刊「魔王」のノミネートの余地を残す
注意2...城野隆が選ばれない場合、または伊坂幸太郎が「魔王」で選出された場合は
次点から繰り上げられるものとする
注意3...文藝春秋社の枠は3が最高とする
この度は、「読んでもいないのに次期直木賞受賞作を推理する」にお付き合い下さいまして
ありがとうございました。
今予想は、あくまでも直木賞を作品レベルとしてよりは出版社や確率、過去の受賞経験から予想する
形であるため、邪道と思われるかもしれませんが、
この賞が、機械が評価するのではなく人間の主観により評価するということ、
そして伝統もあり知名度も高い賞が人間の主観が理由でいかに公平性を欠くものであるかと
いうことを過去のデータを参考にしながら示したものです。
しかしながら直木賞を決して嫌悪しているわけではなく、直木賞があるからこそ一連の記事を
書くことができたことに感謝し、また、直木賞に興味があるからこそこれらの記事を書いた捉えて
いただければと存じます。
気軽な気持ちで、娯楽と思って読んでいただければ幸いです。
また、これをきっかけに直木賞という文学賞のみならず、本というものに少しでも興味を
持っていただけるのであれば、大変光栄です。
2005年の記事は今日で終了です。
また来年お会いしましょう。
ありがとうございました。
* 実際の直木賞候補作は1月初旬に発表され、最終選考会はその1週間後の予定です。
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