takam16の本の棚
です。バーチャルですが......

「2005年 読んだ本ベスト10」バトン
というものがちまたで出回っているようだ。
順位を付けるのは個人的に実は好きではない。
ましてや本という主観の極みで構成された創作物を公平に判断することは
不可能だ。
しかし、自分の印象度を比較として考えるのであればベスト10は可能だろう。


設問があるらしい。設問はアドリブであるべきであると考えている自分にとっては
正直息苦しいが、だからといって新たな設問を生み出せるのかと言われれば、
現状では黙秘権を行使する以外に方法はなさそうだ。
よって言うとおりにする。

【Q1】 2005年に読了した本の中で印象に残ったものを教えてください。
   本の刊行年度は問いません。
【Q2】 これらの作品について簡単に解説してください。


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第1位
「香田証生さんはなぜ殺されたのか」 下川 裕治  新潮社

民主主義とは多勢に無勢の世界だ。少数意見は結局は捻りつぶされてしまうのだ。
世間とはそういうものだ。
香田証生氏は危険なイラクに行った。そしてイラク聖戦アルカイダ機構により
日本の自衛隊撤退要求のカードの1つとされた。そして殺された。
世間は彼に対して大変酷かった。そして、WEBの世界ではこれでもかと言わんばかり
の「恥知らず」「迷惑」「アホ」「死ね」....
自分は実を言うと少数意見の側だ。
事件当時はブログを始めていたので彼について書こうと思ったがためらった。
WEBの多勢に自分は無勢だからだ。自分のサイトも攻撃されると思ったからだ。
彼の行動の賛否の決定打はイラク行きの「目的」にあった。
目的がイラクのためならよし、イラクのためでなければダメ、
目的が第一で、命は二の次にされた。そんなの聞いたことがない。
これぞまさしく日本の現状だ。そしてそれをアオったのはほぼすべてのマスコミだ。
著者は世界中をバックパッカーとして歩く男だ。
この事件を著者は日本で知った。一方、同年4月の人質事件は海外で知ったという。
この自国の彼に対する風当たりを著者はどう感じたのだろう....

香田証生氏をバックパッカーと位置づけて、ニュージーランド、イスラエル、ヨルダン
と彼の足跡をたどった。そこで見えてきた著者のバックパッカーからの視点、
旅人としての香田証生。
自分は元は旅行社勤めの経験を持つ。しかし主に扱った仕事はツアー旅行だった。
つまりは安全・安心だ。一方のバックパッカーには危険・独りだ。
香田証生氏へのバッシングへの疑問に加え、バックパッカーとしての香田証生氏の心のうちを
思う著書に元旅行社員が興味を抱くのは自然の流れである。
注意してほしいのは、香田証生氏の殺された原因を科学的、論理的に記述した書ではない
ということである。あくまでもバックパッカーの気持ちに照らし合わせた
「旅」というものへの著者の考えを述べたものである。
下川 裕治
香田証生さんはなぜ殺されたのか
第2位 「アルジャジーラ 報道の戦争」 ヒュー・マイルズ 光文社 アラブのイスラム社会は一般の日本人にとっては非常に馴染みの薄い存在だ。 しかし彼らの住む地域、つまり中東からは日本人の生活になくてはならない石油を輸入している。 また、日本はアメリカの51州ではと皮肉られるほど、その影響を受けている。 そのアメリカが近年中東と対立関係にある。 表の顔は笑っている。しかし裏の顔は怒っている。 アメリカ路線に進む日本は情報においてもアメリカを 信じやすい。そこに突如あらわれた衛星TV局アルジャジーラ。 自由な報道や主張の許されないイスラム社会において、カタール国の首長の資金援助のもと、 サウジアラビアに疎まれ、パレスチナ自治府と対立し、アメリカ、CNNと反目しながらも 中立な報道を貫こうとするアルジャジーラの成り立ちから現在までの力強い姿を描いた本書に つい日本の報道姿勢を照らし合わせてしまう。 本当のアラブを知ることができるかもしれないと改めて感じた1冊と同時に アルジャジーラの陰部も感じとれた。権力争いを生きたカタール国のトップが開設したのだ。 いつかは権力の交代があるだろう。今の首長がいるから存在するアルジャジーラは 将来の首長のお気に召すかどうかという疑問も感じざるをえない。 その意味ではアルジャジーラは自由ではない。 しかし、彼らは報道の自由を貫くべく日々ニュースを届け続けるのだ。
ヒュー・マイルズ, 河野 純治
アルジャジーラ 報道の戦争すべてを敵に回したテレビ局の果てしなき闘い
第3位 「死亡推定時刻」  朔立木  光文社 冤罪がいかにしてできあがるのかを事件、犯人逮捕、起訴、そして裁判まで克明に 記した物語。本書のおかげで一連の事件から法廷までにいたる過程、手続き等の日数、 専門用語、そしてなんといっても罪を犯していない者が頭から容疑者という先入観で迫る 取調室という空間で精神的に追い込まれ、または警察が精神的に追い込んでいくかを 理解できる。そして、執拗な刑事の攻めに屈してついやっていない罪を認めてしまったら 取り返しのつかない結果を生むかを赤裸々に述べている。 物語という中でそのカラクリを解説を交えながら読み手に納得させる1冊。 勉強にもなり、メモをたっぷり取りました。
朔 立木
死亡推定時刻
第4位 「ぼんくら」  宮部みゆき  講談社 上下巻ある長篇時代小説ながら、主人公のなんともいえないぼんくらぶりに読み手までぼんくらに なってしまう1冊。人物描写をおもしろおかしく読ませようとする著者のこのシリーズ第1作。 江戸時代の庶民を滑稽に描いた笑いを含んだミステリーはそのしかけに違和感を感じる部分も あるが、それでもつい寝る時間を惜しんで読んでしまった。 現代小説の重さと比して、圧倒的な軽さを感じる宮部版時代小説、とくに「ぼんくら」シリーズ。 宮部みゆき氏には今にも増して時代小説に力を入れてもらいたい。 なお、長篇小説は気持ちが上向きの時に読むとよい。さもなくば疲れるだけだ。
宮部 みゆき
ぼんくら〈上〉
宮部 みゆき
ぼんくら〈下〉
第5位 「信仰が人を殺すとき」 ジョン・クラカワー 河出書房新社 個人的に宗教は必要なものだと思っている。それは日本には自殺者があまりにも多すぎるからだ。 3万人の自殺者が信じるなにかを持っていれば救われたかもしれないからだ。 しかし宗教は人をあらぬ方向に導くこともある。多々ある。 それは原理主義。 本書はモルモン教をテーマにし、その中でも固執な原理主義者が引き起こしたある殺人事件を ピックアップし、事件の真相をモルモン教の起源にまで遡り、原理主義ゆえのの問題点を浮き彫り にする。注釈と本文との往復の連続にてこずったが、モルモン教は名前こそ知りつつも 未知の領域でもあったため、勉強になった1冊。
ジョン・クラカワー, 佐宗 鈴夫
信仰が人を殺すとき - 過激な宗教は何を生み出してきたのか
第6位 「ハルカ・エイティ」  姫野カオルコ  文藝春秋 ある1人のおばあさんの自伝的小説だが、今現在を、それも明るく前向きに楽観的に生きる ことの大切さを感じさせてくれた1冊。 さまざまな分野の小説に挑戦しようとする著者の姿勢にも感服。 ストーリー性や娯楽性とは違った伝えたいなにかを本書は持っている。
姫野 カオルコ
ハルカ・エイティ
第7位 「死神の精度」  伊坂幸太郎  文藝春秋 主人公の職業は「死神」。この変化球がまず面白かった。 そのくせ姿形といった外見は人間そのもの。 死を宣告する対象にあわせて年齢や風貌を変えて相手に接触。死に値するかどうかを 判断の上、7日以内にしかるべき部署に報告するというヘンテコな仕事だが、 なぜかぐっと読ませるのは、主人公の死神の内面までは人間になりきれないという点。 「恋愛」「旅」といったものがイマいちピンと来ず、ご飯を食べても味がわからない、 お腹がすいた、いっぱいになったということもわからない、けれど「音楽」は最高。 当然交わされる死の対象となる人間との会話はこの内面のズレが見事に描かれ、 わかりやすい。一見飽きさせそうな死神の物語は短篇であるゆえに回避されている。
伊坂 幸太郎
死神の精度
第8位 「死体を買う男」 歌野晶午   光文社 文章で人を騙すのが得意な著者にまんまとハメられた1冊。 物語を物語で包み、さらにそれを物語で割れないように頑丈に包装したものをおまけに物語 という配送業者にお願いし、しかも送り先は物語というような作品!! というとわかりにくいだろうか....... 説明に困るのだが、しまった!騙された!!と思えば彼の作品を堪能した証拠となる。 そんな作品。あれ?内容は?
歌野 晶午
死体を買う男
第9位 「沼地のある森を抜けて」  梨木香歩  新潮社 人間という生き物は確かに生物界を支配しているかもしれないが、元をたどれば 結局はちっぽけなものなのかと感じさせてくれる1冊。 人間も他の動物も植物も、細胞までもが最初はある1つのものから始まったのだという 壮大なテーマを終着駅とするも、前半部分の奇想天外な出来事の数々、例えば ぬか床から発生した卵が孵ってしまうという非常識な始まりからは想像もできない展開。 また超現実的な人物を主人公にすると一連の奇抜な出来事がよりいっそう楽しめることも 改めて確認。人の生死や平和・戦争を考えるきっかけを与えてくれるという のは著者の得意技のひとつだが、ぬか床をきっかけにそれらを考えさせてくれるのは まさに必殺技だ。
梨木 香歩
沼地のある森を抜けて
第10位 「未来をつくる図書館」  菅谷晃子  岩波新書 他国の図書館の状況を知るには限度がある。我々利用者は自分の街の図書館にのみ関心があるし、 それが普通だ。だからこそ外国の図書館、しかもある特定の図書館の事情を知るのは なかなか難しい。そんな時に地元の図書館棚で思わず手に取った1冊。 図書館の役割が貸し借りにとどまらず、市民生活や情報の発信源となっているのは 日本ではほとんどお目にかかれない。ビジネス指南や履歴書作成指南をする司書。 生涯学習の窓口的な役割、学校教育における教師へのサポート、そして9・11テロ時に 図書館が果した役割......しかもこの図書館は市民の寄付で成り立っている。 寄付で成り立つゆえに不景気時に味わう苦労も伴うが、 市民による市民のための真の図書館が日本にもたくさんできることを願う。
菅谷 明子
未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告―
番外 「昭和史」 半藤一利 平凡社 いいかげん本が黄ばむほどボロボロになっている大切な自宅所蔵本の1つ。 本来であれば順位は上位だが、1年でも何回か読んでおり、やむなくこの位置にした。 いかにして日本が戦争への道を選んだのか、選ばざるを得なかったかという昭和史講演 をとある中規模ホールで聞いているような本書だが、そこから現在にも受け継がれている 日本人の欠点までをも見出だしており、しかも的を得ている。 歴史認識において著者は左派であるとの前提の上に読み進めても、決して押し付けがましくなく、 戦争を知らない世代の入門書として、中学・高校生が読んでも悪書だとは思わない。 今後長く書店に陳列しても売上に貢献できそうな1冊。 そろそろ新たな半藤「昭和史」を買わねば原型をとどめなくなってしまいそうだ。
半藤 一利
昭和史 1926-1945
---------------------------------------------------------------  【Q3】 2006年一発目に読みたいものは?(読んでいる、読んだものでも可)      1発目なのか、2発、3発はダメなのか? おならのように..... 一発目... 紀行  「見ることの塩」  四方田犬彦     二発目... エンタメ「ララピポ」    奥田英朗     三発目... メディア「ご臨終メディア」 森達也、森巣博     四発目... 中国小説「漆黒泉」     森福都
四方田 犬彦
見ることの塩 パレスチナ・セルビア紀行
     【Q4】 このバトンを回したい人を2人まであげてください。      牛でも馬でも持ってけ、泥棒!!  いや、バトン。 <追記> 本記事は みだれ撃ちどの よりバトンを 強奪したものです。 また、このバトンの起源は辻斬りどの であります。 なお、設問の構成はとらどの を参考にしました。 みなさま、どうもありがとうございました。